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髄芽腫6年間の経過で評価を行った。この症例群には8歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCSが低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。 以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQの低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5年の経過で経時的にIQが低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10年程度で,平均では5年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。 代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Studyからの報告9,10)を参考として紹介する。2017年のものは1970~1986年に診断され5年以上生存した380例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019年のものは1970~1999年に診断され5年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortalityに関する報告である。これによると5年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970年代に治療した群と1990年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。 また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。 やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。 現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長CQ 10 249

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