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 無言症の有無での評価はSJMB03に登録された327例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gyで局所55.8 Gyの放射線治療を行っている。放射線照射治療6週後から,4サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaselineからこれらの能力に差があるが,対照群が5年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOLや高次機能においてbaselineでも差があり5年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。 遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03の登録(この時点ではまだ318例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126例の検討である。Baselineの機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achieve-ment Third Editionを用いた。遂行能力はbaselineから低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline scoreが高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6歳では軽度低下がみられたが,10歳では変化なく,14歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6歳,10歳では著明に低下したが,14歳では低下がみられなかった。Baselineでの遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaselineでの低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline scoreが高い場合により低下する傾向にあった。 ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCTの報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1日2回1 Gy照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1日1.8 Gy週5日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9カ月寛解状態を得た137例(過分割群71/107例,標準分割群66/109例)で平均3年の経過で評価を行った。評価法はWISCを基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQの低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQの低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。 陽子線治療によるQOLの変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-reportができる年齢層が対象となった。2002~2015年の登録例161例中116例で,平均5248  髄芽腫

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