ミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)機能欠損の分子機構
DNAは,複製を繰り返すたびに一定の頻度で複製エラー(replication error)を生じる。
DNA複製エラーを修復する主な機構として,直接修復,除去修復,複製後修復,ミスマッ
チ修復などがあり,特に相補的ではない塩基の組み合わせ(DNAミスマッチ)を修復する
機構の異常は,消化器がん発生に重要な役割を果たす。ミスマッチ修復には,MLH1,
MSH2,MSH6,PMS2,MLH3,MSH3の少なくとも6つの遺伝子が関与することが知られ
ており,MSH2,MSH6,MLH1,PMS2からなる四量体はおもに塩基—塩基ミスマッチおよ
び1塩基ループをもつ挿入・欠失ミスペアを修復し,MSH2,MSH3,MLH1,PMS2(ある
いはMLH3)からなる四量体は主に2~4塩基ループをもつ挿入・欠失ミスペアを修復する。
DNA複製エラーは,マイクロサテライトと呼ばれるDNAの1~数塩基の繰り返し配列の部
分で起こりやすく,ミスマッチ修復機能欠損によりマイクロサテライトの反復回数に異常が
生じ,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)を引き起こす。腫瘍
抑制,細胞増殖,DNA修復やアポトーシスなどに関与する遺伝子がMSIによりフレームシ
フトを起こすとがん化につながる
1
。
MMR機能欠損大腸がんにおけるdMMRとMSIの定義
ミスマッチ修復に関わるMLH1,MSH2,PMS2,MSH6のいずれかに病的変異やエピジェ
ネティックな変化が起こると正常な機能を有する蛋白質の合成が行われず,ミスマッチ修復
機能が欠損状態になる。この状態をmismatch repair—deficiency(dMMR)と呼ぶ。その結
果,DNA複製エラーをマイクロサテライト領域で惹起する。複数個所のマイクロサテライ
ト領域における反復配列回数の検査がMSI検査である。以上の背景から,dMMRという用
語は,IHC検査によるMMR蛋白質の発現消失,またはMSI検査による高頻度マイクロサテ
ライト不安定性(MSI—H)のいずれにも使われる。一方,MSI検査において異常を認めない
腫瘍は,マイクロサテライト安定(microsatellite stable:MSS)大腸がんと表現される。ま
た,IHC検査によるMMR蛋白質発現が陽性の場合,mismatch repair—proficient(pMMR)
大腸がんと表現される。このように,MSSやpMMRは,一般にミスマッチ修復機能が維持
された腫瘍を指す。
4.1
背景
27
4
ミスマッチ修復機能欠損を
判定するための検査