Column 10
医療者が患者とのコミュニケーション・スキルを身に付けることは推奨されるか
膵癌患者の診療にあたる医療者は,がんの診断時から終末期まで治療過程を通して患者やその
家族とのコミュニケーションが求められる。医療者のコミュニケーションは患者の精神的健康や
QOL,医療者への信頼感,情報の理解などに影響を及ぼすことから,がん対策基本法においても
医師のコミュニケーション技術の向上が求められている。学習法として,世界的にコミュニケー
ション・スキル・トレーニング(CST)が行われている。CSTとは,患者や家族との面談中の会
話の開始,情報収集,説明,計画,終了の仕方などのコミュニケーション(行動)を構造的,系
統的に学習するプログラムであり,悪い知らせの伝え方や意思決定の共有に焦点を当てたワーク
ショップである。CSTは,トレーニングを受けたファシリテーターがいる小グループで,学習者
中心のロール・プレイとフィードバックを含むプログラム
1)
であり,スキルを向上させる効果が
あることがRCTのシステマティックレビューで示されている
2)
。その有効性の評価には,レベル
1として参加者である医師の評価(例:自己効力感や態度の評価),レベル2として学習効果の評
価(例:模擬患者の評価),レベル3としてコミュニケーション(行動)の評価(例:録画ビデオや
録音音声の第3者による評価),レベル4として患者アウトカムの評価(例:不安や満足感の評価)
が用いられる
3)
。CSTはASCOのコンセンサス・ガイドラインにおいても推奨されている
4)
。
わが国においても,がん患者の意向に即した2日間のCSTプログラム(SHARE-CST)が開発
され,がん専門医を対象としたRCTにより,統制群と比して介入群の医師は望ましいコミュニ
ケーション(行動)が多く,自己効力感が高く,患者の抑うつは低く,医師への信頼感が高いこ
とが示されている
5)
。また,看護師を対象としたRCTにより,統制群と比して介入群の看護師
の面接を受けたがん患者の抑うつ・不安が低く,がんに対する前向きさが高いことが示されてい
る
6)
。SHARE-CST,およびファシリテーター養成講習会は,2007年より厚生労働省委託事業と
して行われ,2017年より日本サイコオンコロジー学会が主催し,日本緩和医療学会との共催で
実施され,普及が進められている。
参考文献
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論
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療
法
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