Ⅲ.成績の報告と細胞判定規準  

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細胞診

2

.中皮腫細胞診断の判定規準

 体腔液は中皮腫の最初の徴候であることが多いが,経過中に消失することもある。したがって,初
回の体腔液貯留時に体腔液細胞診を行うことにより,早い時期に中皮腫の診断が可能となる。Papani-
colaou

染色などの通常の細胞診標本で中皮腫を疑うことは可能であるが,癌細胞や反応性中皮細胞な

どと鑑別するために,塗抹標本やセルブロックを用いて免疫組織化学的染色を行い診断する必要があ
る。
 表1に細胞診で中皮腫を示唆する所見を挙げる。スライドガラス上に多数の中皮由来の細胞を認め
る(図1a)。孤立性あるいは大小の球状,乳頭状あるいは平面的集塊として出現する(図1b,c)。中
皮腫細胞は正常の中皮細胞よりも大きく,細胞質はライトグリーン好性で,核周囲は明るく,その周
囲は重厚感が増している(図1d)。発達した微絨毛および微絨毛周囲のヒアルロン酸付着により細胞
質辺縁が不明瞭化している。May‒Giemsa染色で細胞質は好塩基性を示す。核は類円形のものが多い
が,核形不整を示すものもある。強い核異型を認めることは稀である。好酸性で明瞭な核小体が1な
いし2個みられる。相互封入所見(図1e)に伴い,一方の細胞質が瘤状に突出する「hump様細胞質
突起を有する鋳型細胞」がみられる(図1f)。また,多核細胞の頻度が高く(20%以上)(図1d),間
質を伴った細胞集塊(collagenous stroma)が高頻度に認められる。核濃縮を呈し細胞質が角化細胞類
似のオレンジG好性細胞の出現を認める例が多い。グリコーゲンに富むことからPAS染色で細胞質は
顆粒状強陽性を示し,ジアスターゼ前処理で消化される。またヒアルロン酸を含むことから,アルシ
アンブルー染色で主に細胞膜や細胞質に陽性反応を呈し,ヒアルロニダーゼ前処理で消失する。
 これらの所見がみられた場合,癌腫の漿膜転移や反応性中皮を鑑別するために,細胞転写法,セル
ブロック法などにより免疫組織化学的染色を行う。癌腫との鑑別は多くの場合,免疫組織化学的染色
により可能である。中皮のマーカー2種と癌腫のマーカー2種を検討し,前者が陽性で後者が陰性で
あることを確認する。いずれかの染色性が中皮腫として矛盾する場合は,さらに別の抗体を検討する。
癌腫の体腔液細胞診標本には反応性中皮細胞も出現するため,小型の中皮細胞が中皮のマーカーに陽
性であっても,中皮腫とは診断できない。
 体腔液細胞診標本に出現する肺腺癌細胞は,集塊の細胞密度が高く,細胞の配列の乱れを認め,集
塊の辺縁で核が細胞質に接する所見や核の突出像などがみられる。核は偏在性で,核のクロマチンが
増量し,核の大小不同,核縁の切れ込みや皺などが目立つ(図2a,b)。1個ないし数個の不整形の腫

表1.中皮腫診断に役立つ細胞診所見

 1

)背景の粘液様物質(ヒアルロン酸)

 2

)多数の中皮腫細胞の出現(孤立性,球状・乳頭状細胞集塊)

 3

)Collagenous stromaを有する細胞集塊

 4

)細胞の大きさ(リンパ球の6倍以上)

 5

)核の大きさ(リンパ球の4倍以上)

 6

)窓形成および細胞相接所見

 7

)相互封入像およびhump様細胞質突起

 8

)細胞質の重厚感

 9

)細胞質辺縁の不明瞭化

10

)2核以上の多核細胞の出現率増加(出現細胞の25%程度)

11

)オレンジG好性細胞