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6.病理診断
Ⅲ.検体の取り扱い・切り出し方法
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.切り出し方法
胸膜中皮腫の外科治療には,胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除/肺剝皮術(P/D)がある。手術材料
は,TNM分類のT1因子(壁側胸膜,臓側胸膜),T2因子(横隔膜筋層浸潤,肺実質浸潤),T3因子
(胸内筋膜浸潤,縦隔脂肪織浸潤,非貫通性心膜浸潤)について病理学的に検討する必要がある。T4
は浸潤・進展が高度で切除不能な病期であり,手術材料においてT4因子(胸壁へのびまん性浸潤,
経横隔膜的腹膜浸潤,対側胸膜への直接浸潤,縦隔臓器浸潤,脊椎浸潤,貫通性心膜浸潤)を評価す
ることは,貫通性心膜浸潤や一部の縦隔臓器浸潤を除けば,ほとんどない。
EPPの手術材料は,気管支からホルマリンを滴下・注入して肺組織を固定するとともに,注射器を
用いて胸壁剝離面からホルマリン固定液を注入して胸腔領域を十分に固定することが理想的である。
至適な切り出し方法・手順については各施設で決めておくことが勧められるが,前額断に割面を入れ
て腫瘍の広がりを肉眼的に調べ,壁側胸膜および臓側胸膜と肺実質を含めて切り出し,検索する手順
が一般的である。壁側胸膜の剝離面(切除断端)については,顕微鏡的遺残腫瘍の有無を調べること
を念頭において複数の部位を切り出す。横隔膜,縦隔脂肪織,心膜,気管支断端についても腫瘍浸潤
を検討できるように切り出す。生検施行創から連続する胸壁組織が切除されている場合は,腫瘍浸潤
を検討できるように切り出す。
P/Dの手術材料(壁側胸膜と臓側胸膜)は,ゴム板などに貼り付けて伸展させ,ホルマリン固定す
る。病変が検索しやすくなるばかりではなく,胸膜の組織構築が保たれて病理組織学的検索が比較的
容易に行える利点がある。P/Dは,腫瘍の進展を検討するために,異常と思われる部位だけではなく
正常にみえる部位も切り出しておくことが大切である。壁側胸膜および臓側胸膜の剝離面(切除断端)
については,顕微鏡的遺残腫瘍の有無を調べることを念頭において複数の部位を切り出す。横隔膜,
心膜,縦隔脂肪織,胸壁(生検部位)が切除・摘出されている場合は,腫瘍浸潤を検討できるように
切り出す。
胸腔鏡下胸膜生検標本も,ゴム板などに貼り付けて伸展させホルマリン固定し,内視鏡切除材料の
ように割を入れ,標本を作製する。
附記:壁側胸膜と胸壁の解剖
壁側胸膜の基本的な組織像を図1a,bに示す。胸膜の表面に一層の中皮が並び,その下に薄い中皮
下層があり,その下に内弾力膜がある。内弾力膜と外弾力膜の間に結合組織層,脂肪組織を認める。
内弾力膜,外弾力膜は細かい弾力線維が集まり,全体として1つの膜を形成している。部位により,
結合組織層,脂肪組織が不明瞭で,内弾力膜と外弾力膜が連続していることや(図1c),内弾力膜,
外弾力膜が消失していることがある。特に炎症や腫瘍が存在すると,胸膜の構造は不明瞭になりやすい。
外弾力膜の下に胸内筋膜がある。胸内筋膜は連続した構造ではない。胸内筋膜の外側に,脂肪組織,
横紋筋組織,肋骨が存在する。弾力線維は外弾力膜から連続して,脂肪組織,横紋筋組織の間を斜め
に走行し,肋骨の骨膜に付着し,壁側胸膜を胸壁に対して固定している(図2a)。肋骨横隔膜角にお