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ってよい。分子診断の導入は単緒についたばかりであり,その内容は今後も研究の進歩と

ともに発展していくことが考えられる。一方,最先端の研究結果を,普遍性が要求される

世界標準としてのWHO診断基準にどこまで反映させるべきかという議論は今後も続い

ていくものと予想される。脳腫瘍の診断においては当面WHO2016の基準に準拠しつつ,

今後の方向性を注視していく必要がある。

本稿においては日常の診療で比較的遭遇する悪性脳腫瘍に絞り,確定診断に必要もしく

は診断上有用と考えられている分子遺伝学的所見とその解析方法について解説する。

.解析法各論

ઃ.コピー数・LOH・染色体異常解析法

脳腫瘍には多くの特徴的なコピー数異常が見られる。コピー数異常には大きく分けて,

染色体全体または長腕・短腕全体ないしはそれに準ずる広範囲に及ぶ欠失または1〜2コ

ピー程度の増加と,限られた領域(数10kb〜数Mb)における高コピー数の増幅amplifica-

tionがある。いわゆるヘテロ接合性の消失lossofheterozygosity(LOH)は,一塩基多型

singlenucleotidepolymorphism(SNP)や縦列型反復配列多型shorttandemrepeat(STR)

により相同染色体のアリルのヘテロ接合性が認められるときに,欠失によりヘテロ接合性

が失われることを指し,通常は1コピー欠失と同義に用いられることが多い。ただし,

astrocytomaにおけるTP53領域(17p13)のように片方のアリルの欠失にもう一方のアリ

ルの重複duplicationが伴うときは,後述するマイクロサテライトやSNPアレイなどでヘ

テロ接合性を調べることによりLOHは認められるものの,アレイCGHやFISHなどコ

ピー数を量的に調べる検査では欠失として検出されない。従ってLOHは検査法に依存す

る現象であり,表現には注意を要する。

a.FISH

Fluorescenceinsituhybridization(FISH)は,標的とする塩基配列に相補的な配列を持

つ核酸プローブを蛍光色素で標識し,組織・細胞または染色体に対してハイブリダイゼー

ションを行って特異的シグナルを蛍光顕微鏡で観察し,染色体のコピー数測定または転

座・再配列を検出するという分子細胞遺伝学的手法である。脳腫瘍の分子遺伝学的解析に

おいては,FISHは組織切片を用いて1p/19qcodeletion(図2-1)やEGFRなどのコピー数

異常を増幅の検出などに用いられる。FISHの利点は以下の通りである。

診断用のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)病理組織切片を使うことができるう

え,多くのプローブが市販されているので,臨床検査としては汎用性が高い。

病理所見との比較対象が比較的容易であり,腫瘍細胞を含まない組織片が検査に供さ

れることによる偽陰性などの可能性が低い。

大量の正常細胞の混入などにより組織内の腫瘍細胞の分布が不均一な場合,標的の部

位を特定して検査することが可能である。

一方,FISHには以下のような欠点もあるので,結果の解釈にあたっては注意する必要

がある。

一定の厚さを持つ組織切片を二次元構造として評価するため,核が分割されたり重な

脳腫瘍の分子診断

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