52
CQ
8
続発性リンパ浮腫のリスクのある患者が運動(エクササイズ)を行った
場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫の発症率は減少するか?
乳癌術後上肢リンパ浮腫のリスクを有する患者において,運動はリンパ浮腫の発症率を
下げる。また,乳癌術後の上肢リンパ浮腫に対する従来の複合的治療と負荷を伴う運動
療法(弾性着衣の着用下での十分に吟味された運動プログラム)は,患肢の増悪を招く
ことなく筋力を向上させ,心身の生活の質を改善する。
一方,下肢リンパ浮腫については,予防・治療ともランダム化比較試験はないが,身体
活動により発症率が下がるとする症例対照研究が存在する。ほぼ確実とまではいえない
が,発症率を下げることを示唆する根拠があると判断した。
上肢:Probable(ほぼ確実) 下肢:Limited-suggestive(可能性あり)
背景・目的
リンパ浮腫の予防・治療において,正常な四肢の運動機能と活動性を維持・改善するため
には,理学療法士など専門知識を有する介助者による受動運動も含めて術後早期からの運動
療法が効果的であるといわれる一方で,術後早期の運動は体液貯留などの合併症が増えると
の懸念が根強く残っている。特に上肢では肩関節拘縮が術後のQOL低下を招くことが知ら
れているにもかかわらず,術後は患側肢で重いものを持たず酷使せぬようにという指導が普
及しており,これが筋力低下や拘縮を助長する場合も少なくない。
これに関して,従来,質の高い臨床研究の報告がなかった。近年,特に上肢に関しては予
防・治療のそれぞれにおいてランダム化比較試験が増加し,運動内容についても具体的に提
案し得る材料が揃ってきた。上肢における論文数のほうが多いが,下肢に関しても症例対照
研究で同様の結果が得られている。本CQでは具体的なレジメンを含めて最近の知見を検証
した。
解 説
術後の運動療法はリンパ浮腫を悪化させず安全である,という報告が増えてきている。
Dos Santosらは,乳癌サバイバーにレジスタンストレーニング(resistance training;
RT)が及ぼす影響に関する研究についてシステマティック・レビューを行った
1)
。選ばれた
10の研究から筋力,体組成,心理・社会的パラメーター,血液中のバイオマーカーが検討
された。高負荷の場合には高度の筋力の向上が示されたが,ほとんどの研究では低〜中程度
の筋力向上が報告されている。5つの論文ではリンパ浮腫を評価していたが,いずれもリン
パ浮腫の悪化のリスクは増えなかった。体組成の研究では1つの論文を除いて,変化はみら
れなかったとされている。
Paramanandamらは,乳癌関連リンパ浮腫をすでに発症している,またはそのリスクが
ある女性を対象に,ウェイトトレーニングがリンパ浮腫に及ぼす影響を調べた研究について
システマティック・レビューを行った
2)
。計1,091人を対象とした8つの試験から11論文が