III

.肺癌の生検診断  

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4

(5.細胞診の章を参照)。これらの構造や細胞形態に特徴的所見がみられない場合は非小細胞癌

non

⊖small cell carcinoma(NSCC)との診断にとどめ,特殊染色(免疫染色や粘液染色)を行うべき

である。腺癌の中には非角化型扁平上皮癌様の形態をとるものがあり,また,細胞診では乾燥に
より変性細胞や壊死細胞が角化細胞にみえることがある。これらを扁平上皮癌と誤って診断する

表3.生検診断の用語

生検の用語

説 明

Adenocarcinoma

(腺癌)

光顕で腺癌の特徴が確認できる場合。腺癌亜型に対応するパ
ターンが観察される場合はそのパターンを記載する。例えば以
下のような例が挙げられる。
 1 

.adenocarcinoma with lepidic pattern

(この中には上皮内腺癌,微少浸潤性腺癌,置換型腺癌などが

含まれる)

 2 

.invasive mucinous adenocarcinoma

(画像的に肺炎様の影を示し,粘液を満たした肺胞腔内に杯細

胞⊘高円柱上皮が肺胞壁に沿った特徴的な増殖をし,確信がも
てる場合)

 3 

.mucinous adenocarcinoma with lepidic pattern

(末梢肺の孤立性陰影を呈する腫瘍で,goblet cellの増殖をきた

す場合などmucinous adenocarcinomaとし,lepidic growthが
認められれば,mucinous adenocarcinoma with lepidic patternと
付帯所見を付ける)

 4 

.adenocarcinoma with colloid features

(コロイド腺癌を想定する場合の診断名)

 5 

.adenocarcinoma with fetal features

(胎児性癌を想定する場合の診断名)

 6 

.adenocarcinoma with enteric features

(腸型腺癌を想定する場合の診断名。この診断名を付ける場合

は,臨床所見と適切な免疫染色を行うことで,転移性肺癌を慎
重に除外する)

Squamous cell carcinoma

(扁平上皮癌)

光顕で扁平上皮の特徴が確認できる場合。

Small cell carcinoma

(小細胞癌)

光顕で小細胞癌の特徴を有している場合。

NSCC, favor adenocarcinoma

(非小細胞癌,腺癌を示唆)

形態的な腺癌パターンはないが,特異性のある免疫染色(例:
TTF

⊖1陽性)や粘液染色によって腺癌を示唆する所見が得られた

場合。

NSCC, favor squamous cell carcinoma

(非小細胞癌,扁平上皮癌を示唆)

形態的な扁平上皮癌パターンはないが,特異性のある免疫染色

(例:p40陽性)によって扁平上皮癌を示唆する所見が得られた場

合。

NSCC with neuroendocrine morphology and posi-
tive neuroendocrine markers, possible LCNEC

(LCNECを示唆する非小細胞癌)

LCNEC

を想定する場合。表2(10)に記載されているように,神

経内分泌形態および神経内分泌マーカー陽性であることを明瞭
に記載すべきである。免疫染色を行わなかった場合にはNSCC 
with neuroendocrine morphology

,possible LCNECとなる。神経

内分泌マーカー陽性の腺癌もしくは扁平上皮癌は臨床病理学的
意義がないことはコンセンサスが得られており,それらの腫瘍
とLCNECは明確に区別される必要がある。

NSCC

,NOS

(非小細胞癌NOS)

形態学的,特殊染色においても腺癌もしくは扁平上皮癌の特徴
が得られなかった場合。これには,腺癌,扁平上皮癌いずれの成
分も存在し,腺扁平上皮癌が疑われる場合が含まれる。また,多
形癌,紡錐形細胞癌,巨細胞癌の成分のみの場合も,NSCC,NOS
とし,肉腫様変化を伴うと記載する。