RAS遺伝子とRAS遺伝子変異

 RASタンパク質は188—189個のアミノ酸から成る約21 kDaの低分子グアノシン三リン酸

(GTP)結合タンパクであり,KRAS,NRAS,HRASの3種類のアイソフォームが存在す

9,10

。EGFRなど上流からの刺激により,グアノシン二リン酸(GDP)がRAS分子から離

れ,代わりに細胞質からGTPが結合することでRASは活性型となる。活性型RASは,
RAF,PI3K,RALGDSなど20種類に及ぶエフェクタータンパク質と結合し,下流のシグナ
ルカスケードを活性化する。一方,活性型RASはGTPase活性化タンパク質(GAP)と結
合するとGTPを加水分解し不活性型となる。RAS遺伝子は,KRASが12番染色体,NRAS
が1番染色体,HRASが11番染色体に位置し,それぞれ4つのエクソンと3つのイントロ
ンからなる。RAS遺伝子変異によりアミノ酸置換が生じると変異型RASはGTPに結合する
一方でGTPを加水分解できなくなることから,恒常的な活性化状態となり,下流にシグナ
ルを送り続ける。この過剰なシグナルが,発がんやがんの増殖に関与しているとされる。

大腸がんにおけるRAS遺伝子変異の頻度

 大腸がんでのRAS遺伝子変異の頻度は,COSMIC(Catalogue Of Somatic Mutations In 
Cancer)データベース(v77)によればKRAS遺伝子33.4%,NRAS遺伝子3.6%,HRAS
遺伝子0.3%と報告され

11

,KRAS遺伝子エクソン2(コドン12,コドン13)変異が多くを占

める。RAS遺伝子の点突然変異は大腸がんの初期に起こると報告されており,大腸がんの病

8

EGFRはリガンドの刺激により下流のPI3K/AKT/mTOR,RAS/RAF,
JAK/STAT経路を活性化し,がん細胞の生存・増殖などに関わる。RAS,
RAFに遺伝子変異を有するがん細胞においては,それぞれの変異タンパク質
がEGFRからの刺激の有無にかかわらずMEK—ERK経路を活性化し細胞の
生存・増殖を維持する。

図1 大腸がんとEGFRシグナル伝達経路

リガンド:EGF,amphiregulin,epiregulinなど

EGFR

EGFR

細胞膜

PI3K

AKT

mTOR

RAS

RAF

MEK

ERK

JAK

STAT

増殖・浸潤・転移・生存・血管新生など