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1.疾患概念(Disease Concept)
生存期間延長効果を得ることができない可能性があるものと定義される
4,5)
。「NCCNガイド
ライン」
(2014年版)では,術前CTにより上記の定義を満たすものをborderline resectable
膵癌としている
1)
。
Borderline resectable膵癌の「NCCNガイドライン」
(2014年版)の定義における,上腸間
膜静脈(SMV)・門脈浸潤と,腹腔動脈幹周囲神経叢浸潤に関して,施設間で相違がある。
SMV・門脈浸潤に関しては,米国肝胆膵学会議(AHPBA)
/
米国消化器外科学会(SSAT)
/
外科腫瘍学会議(SSO)の定義では,SMVあるいは門脈(PV)の狭小化を認めないabutment
症例もborderline resectable膵癌に含まれるが,MD Andersonクライテリアではocclusion
症例のみと定義されている
4,6)
。また,腹腔動脈周囲神経叢浸潤に関しては,MD Anderson
クライテリアでは,腹腔動脈(CA)へのabutment症例もborderline resectable膵癌に含ま
れる
4)
。
手術技術の向上により,膵切除術におけるSMV・門脈浸潤合併切除術は,安全な術式と
して確立され,また非合併切除術症例との生存期間に差を認めない
7,8)
。しかしながら,病
理学的にSMVあるいは門脈浸潤を認める症例の生存期間は,非浸潤症例よりも有意に短
い
9,10)
。また,術前治療によりR0率が改善された報告もあり
9)
,これらのことを考慮する
と,「NCCNガイドライン」
(2014年版)における定義が有用である。腹腔動脈周囲神経叢浸
潤症例に関しては,近年,borderline resectable膵癌として腹腔動脈合併切除術を行う報告
が,わが国を中心に多くみられる。各々の報告の症例数は少なく,また追跡期間も十分では
ないため,エビデンスとしては乏しいが,腹腔動脈合併切除術を行いR0となった症例に関
しては長期生存が期待できる
11─14)
。
2015年版の新たな「NCCNガイドライン」では,膵頭部癌と膵体尾部癌に分類され,「腹腔
動脈浸潤を認めるが,大動脈ならびに胃十二指腸動脈に浸潤を認めない膵体尾部癌」は
borderline resectable膵癌に含まれる。ただし,「NCCNガイドラインのメンバーの数名は,
このクライテリアを満たす膵体尾部癌をunresectable膵癌とする」という注釈が加えられて
おり,議論の余地がある。わが国では,日本膵臓学会膵癌取扱い規約委員会による『膵癌取
扱い規約』
(第7版)
15)
において,切除可能性分類は,その基準を標準的手術により肉眼的に
も組織学的にも癌遺残のないR0切除が可能かどうかという視点から,切除可能
(resectable;R),切除可能境界(borderline resectable;BR),切除不能(unresectable;
UR)に分けている。すなわち,Rは標準的手術によってR0切除が達成可能なもの,BRは標
準的手術のみでは組織学的に癌遺残のあるR1切除となる可能性が高いもの,局所進行UR
は大血管浸潤を伴うため肉眼的に癌遺残のあるR2切除となる可能性が高いものである。な
お,本規約の切除可能性分類では,腫瘍の主座は規定せず,また動脈の破格は問わない。
Borderline resectable膵癌の腫瘍主座は規定せず,門脈浸潤を認めるBR-PVと動脈浸潤を認
めるBR-Aに分類している。BR-PVのクライテリアは,「上腸間膜動脈(SMA),CA,総肝
動脈(CHA)の接触や浸潤の所見がないもので,SMV
/
PVと腫瘍との接触が180度以上ある
もの,あるいは,SMV
/
PVの閉塞を認めるが,浸潤の範囲が十二指腸下縁をこえないもの」