172 20 上皮成長因子受容体(EGFR)
はじめに
上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:EGFR)は膜貫通型受容体チロ
シンキナーゼであり,その活性化,すなわちリン酸化が癌の増殖や進展に関わるシグナル伝達
に重要であることがわかっている。癌治療において,EGFRは分子標的として注目され,EGFR
標的薬の開発やEGFR遺伝子変異のバイオマーカーとしての研究がなされている。
CQ
1
EGFRの過剰発現は各癌種にとって予後不良因子となるか?
Answer
非小細胞肺癌,上咽頭癌,胃癌,胆管癌において予後不良因子として報告されている。
解 説
上皮成長因子受容体(EGFR)はHER1/erbB1とも呼ばれる170 kDaの膜貫通型糖蛋白受容
体チロシンキナーゼであり,他の3つのファミリーメンバー(HER2/neu/erbB2,HER3/erbB3,
HER4/erbB4)を含む受容体チロシンキナーゼに属する。EGFRは細胞外において上皮成長因
子(EGF),TGFa,amphiregulinなどのリガンドと結合し,EGFR同士のホモ二量体もしくは
他のHERファミリー分子とのヘテロ二量体を形成する。EGFRは細胞内チロシンキナーゼド
メインの自己リン酸化を介して活性化され,下流へのシグナル伝達が起こる(
図1
)。下流シグ
ナル経路としては,RAS/RAF/MAPK経路,PI3K/AKT/MTOR経路,JAK/STAT経路など
が存在する。特に重要とされるのがRAS/RAF/MAPK経路,PI3K/AKT/MTOR経路であり,
RAS/RAF/MAPK経路は,細胞増殖や生存を制御する重要な経路であり,PI3K/AKT/MTOR
経路は,細胞成長,アポトーシス抵抗性,浸潤や転移を起こす
1)
。これらEGFR経路は,正常
組織では細胞分化,増殖,維持に重要な役割を果たす一方,癌組織ではその機能亢進による増
殖,アポトーシス抵抗性,浸潤,血管新生,転移などに関与している
2, 3)
。EGFRの過剰発現は
様々な癌で認められ,非小細胞肺癌の40-80%,大腸癌の25-77%,胃癌の33-74%,膵癌の
30-50%,頭頸部癌の36-100%,乳癌の14-91%,前立腺癌の40-80%,腎癌の50-90%,卵巣
癌の35-70%と報告されている
4)
。非小細胞肺癌
5, 6)
,上咽頭癌
7, 8)
,胃癌
9, 10)
,胆管癌
11)
において
EGFRの過剰発現が予後不良因子と報告されており,分子治療標的として注目されている。