総説 3
度が高いことはイコール偽陰性(見逃し症例)率が低いことを,特異度が高いことは偽陽性率が低
いことを意味する。
一方,陽性的中率とは検査Tが陽性の群で実際に疾患Dを持つ者の割合を意味し,陰性的中率と
は検査Tが陰性の群で疾患Dを持たない者の割合を示す。感度よりもむしろ陽性的中率が個々の患
者の実際の診療に密接に関係してくる。
感度・特異度と陽性的中率・陰性的中率は明確に区別すべきである。具体的な例を挙げたほうが
理解しやすい。感度99%,特異度99%の腫瘍マーカーがあったとする(実際にはありえない高性能
マーカーであるが)。この腫瘍マーカーを疾患が存在する割合(有病率)が0.1%の集団を対象に用
いたとする。検査対象者が100,000人いたとして疾患を持つ100人のうち,検査陽性99人,検査陰
性1人,疾患を持たない99,900人のうち,検査陽性999人,検査陰性98,901人の結果が得られるは
ずである。こうなると,陽性の検査結果を受け取る1,098人のうち,大半の999人は実際には腫瘍
を有しないこととなり,陽性的中率は99/1098=9%にすぎない。一方,陰性的中率は,ほぼ1と高
い。本例のように陽性,陰性の的中率は有病率の影響を大きく受ける。有病率と陽性的中率の関係
を
図1
に示した。検査は使いようであり,例えば除外診断目的には感度の高い検査の陰性結果が役
立つ。一方,特異度が高い検査は陰性結果よりも陽性結果が得られた場合の方が検査後確率の変化
が大きい。
またインフルエンザ抗原検査の例を挙げてみよう。本検査を非流行期に除外診断目的に用いると
する。非流行期なので有病率は低く,漫然と本検査を行っても,まず陰性である。つまり本検査を
スクリーニング的に全症例で行っても,陽性的中率が極めて低くあまり意味がない。したがって陽
性的中率を上げるため,症候から検査対象患者の絞り込みを行う(=(検査対象集団の有病率を上げ
る))。その上で本検査を行うが,感度が高い検査ならば偽陰性(見逃し症例)率が低いので,除外
診断目的に適する。
最新の技術に立脚した分子腫瘍マーカーであっても,測定目的に応じて上記のような「物差し」
を目安に適切な局面で適切な患者さんに用いないと,十分に活用されず,費用対効果の説明が難し
くなる。
従来の腫瘍マーカーは本来,マススクリーニング的な用途には向かないとされるが,陽性尤度比
1/5
1/10
1/501/100
1/1,000
有病率
感度/特異度=99/99
感度/特異度=90/90
感度/特異度=80/80
100
80
60
40
20
0
陽性的中率(
%
)
図1
陽性的中率と有病率の関係