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第7版 序
本邦では1980年10月に手術所見記載,病理学的検索および組織学的分類を共通の基準の下に
検討する手段として「外科・病理 膵癌取扱い規約(第1版)」が発刊された。その後,改訂を重
ね1996年には日本語版に改訂を加えた英語版が発刊され国際的にも用いられるようになった。一
方,欧米ではUICCにより1987年に膵癌のTNM分類とStage分類が作成され,2009年にはUICC
第7版が発刊され広く用いられている。両規約ともTNM分類を用いているが,本邦の規約は多
くの臨床情報の記録を,UICCでは臓器横断的なシンプルな表現を重視していたために,T分類,
N分類,Stage分類が著しく異なったものとなり,本邦と欧米との膵癌治療成績を比較するうえ
で大きな障害となっていた。それ故に,本邦の規約の長所を保持しつつ,国際標準に整合性を
もって対応可能な新規約を作成することが望まれてきた。
2013年4月より規約第7版の改訂に向けて①TNM分類とStage分類の再考,②切除可能性分
類(Resectability:Resectable,Borderline resectable,Unresectable)の導入,③画像診断によ
る判定基準の導入,④病理分類をWHOとの整合性をはかることの4点を最重点項目として協議
を開始した。さらに,術前加療が積極的に行われてきている現状をふまえて生検診断,細胞診,
術前治療後の組織学的治療効果判定基準の策定などの新規項目を加えることとした。このため,
規約検討委員を25名(外科12名,内科4名,病理7名,画像診断1名,解剖1名)に増員し,
計7回の委員会にて協議を重ねて,2015年10月に規約第7版草案を作成した。この草案を日本
膵臓学会ホームページに公開しパブリックコメントを求めると共に,11月には公聴会(第77回
日本臨床外科学会総会,福岡)を開催して幅広い層からの多数のご意見を頂いた。これを受けて
規約検討委員会にて再検討を行うと共に,特に本邦独自の膵頭神経叢を含む膵外神経叢の抜本的
見直しのために「膵外神経叢ワーキンググループ」を新たに招集して討議を重ねたすえ,2016年
3月に第8回規約検討委員会をもって完成するに至った。
今回の改訂では,大幅な改訂とCT画像を含めた新規項目を追加したため,第6版補訂版の57
頁から倍以上の121頁へ増加している。実地臨床に用いやすいように巻頭には記載項目を規約摘
記としてまとめ,詳細は本文で記載することとし,日本膵臓学会全国膵癌登録症例のデータから
検討した各因子やStageごとの成績なども掲載した。膵癌診療ガイドラインとも歩調を合わせて
おり日常臨床に活用されるとともに,本規約に基づいて蓄積されたデータからなる研究成果が世
界に発信されることを望む。
今回の改訂および新規項目の要点は,以下の如くである。
<改訂項目>
● 腫瘍占居部位:膵体部と尾部の境界を大動脈左縁に変更した。
● T分類:T3,T4分類をUICCのTNM分類(第7版)に準じて上腸間膜動脈(SMA)と腹
腔動脈(CA)への浸潤の程度にて分類した。さらに,T1分類はIPMNへの将来的な活用も
視野に入れて,腫瘍の大きさに応じてT1a,T1b,T1cと亜分類した。
・膵外神経叢の解剖学的再検討を行い新たな図を作成し,手術写真とともに掲載した。
● N分類:群分類から領域リンパ節内の転移個数による分類にした。領域リンパ節内の転移個
数によって1~3個までの転移をN1a,4個以上の転移をN1bに亜分類した。