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ホルモン依存性乳癌に対する新しい分子標的治療薬
─mTOR阻害薬,Palbociclibを中心として
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現在進行中の期待されるPI3K/Akt/
mTOR経路の阻害薬の試験(表2)
Buparlishibを含む汎PI3K阻害薬に加え,有
効性や有害事象の面でより有利と考えられる
PI3K選択的阻害薬(BYL719など)も精力的に臨
床開発が進められている。
PI3K/Akt/mTOR経路には,mTORC1/SK61
を介したネガティブフィードバック機構があり,
PI3Kシグナルを抑制している。エベロリムスに
よるmTOR下流のシグナル阻害によりS6Kが抑
制されると,IGF─1Rのシグナルを細胞内に伝達
するIRS1の抑制が解除され,結果的にAktの活
性化を誘導する。エベロリムス投与例で投与後,
腫瘍組織内のAktの発現が上昇することが報告
されている
18)
。また,mTORC2もAktのリン酸
化を促進するが,エベロリムスはmTORC1を阻
害し,mTORC2は阻害しない。さらに,mTOR
阻害薬により代替経路であるMAPK経路や
PDGFR経路のシグナルが誘導される。エベロリ
ムス使用下のAkt活性化や代替経路シグナルの
活性化を抑制することはエベロリムスの効果増強
および耐性克服の方法の一つと考えられている。
mTORC1不活化によるフィードバック機構を
介したAkt活性化に対しては,AZ2014や
AZ5363などのAkt阻害薬やMLN0128などの
mTORC1/mTORC2の両者の阻害薬が試みられ
ている。また,PI3KとmTORの両者の阻害薬
を同時に併用する第Ⅱ相試験としてBYL7191+
エベロリムス+フルベストラントが検討されて
いる(NCT02077933)。
Ⅳ
Ⅳ Cyclin─dependent kinase
(CDK)4/6阻害薬
細胞は複製と分裂を周期的に交互に繰り返すこ
とにより増殖している。1回の分裂増殖の過程を
細胞周期とよび,G1期(細胞間期),S期(DNA
複製期),G2期(DNA複製と分裂の間期),M期
(分裂期)からなる。細胞周期を進行する方向に
調節している代表的な因子はセリン/スレオニン
キナーゼであるCDKやサイクリンである。一方,
細胞周期チェックポイントにより細胞周期は負に
制御されている。
CDK4/6はG1期からS期への移行に関わる因
子である。CDK4/6はサイクリンDと複合体を
形成し,Rbをリン酸化し,Rbに結合していた転
写因子E2Fが離れ,S期進行やDNA複製に必要
な遺伝子群の発現が誘導される。
乳癌においても種々の細胞周期に関わる因子の
遺伝子異常が報告されているが,サイクリンD1
増幅がLuminal Aで29%,Luminal Bで58%あ
りホルモン受容体陽性乳癌でその頻度は高い
16)
。
種々の乳癌細胞株を用いた検討では,CDK4/6
阻害薬によりER陽性乳癌細胞株の増殖を抑制し
た
19)
。CDK4/6阻害薬にはpalbociclib,LEE011
(ribociclib),abemaciclibなどがあり,内分泌療
法単独に対する追加効果を検証する多数の試験が
進行中である。
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Palbociclib(表1)
閉経後ER陽性/HER2陰性進行乳癌165人に
対する一次治療としてレトロゾールへの
palbociclibの追加効果を検討した非盲検化ランダ
ム化第Ⅱ相試験(PALOMA─1)結果が報告され
ている
19)
。対照群はレトロゾール2.5mg/日を経
口投与,試験群はレトロゾール2.5mg/日に
palbociclib 125mg/日を3週連続経口投与し,続
く1週は休薬し,28日を1コースとして試験が
行われた。レトロゾールとpalbociclibの併用は
レトロゾール単独に比し,奏効率(43%vs.
33%,P<0.0001),CBR(81%vs. 56%,P=
0.0009),PFS(20.2カ月vs. 10.2カ月,HR 0.488,
95%CI 0.319─0.748,P=0.0004)を有意に改善し
た。サイクリンD1遺伝子増幅あるいはp16欠失
の有無はpalbociclibの効果予測因子とはならなっ
た。Paclbociclib追加によりGrade3以上の好中
球減少を54%に認めたが,発熱性好中球減少は
発症しなかった。他のGrade3以上の有害事象は,
貧血6%,倦怠感4%,下痢4%,悪心2%,血
小板減少2%,呼吸困難2%などであった。
Palbociclib群では有害事象による休薬が33%,
次コース延期が45%,palbociclibの減量が
40%,投与中止が13%であり,レトロゾール単