2‒2.内科的治療/A.治療のプランニング

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モキシフェンを投与することは,温存乳房内再発
および対側乳癌を減少させる。しかし,ホットフ
ラッシュなどによるQOL低下および血栓症や子
宮内膜癌のリスクがあるので,有用性と副作用の
バランスを考えて投与の可否を決定する。

ガイドライン 薬物療法 CQ4,6~9,36

c)治療効果の推定

 手術のみの治療を受けた場合の再発リスクを推
定する。最も重要なリスク因子はリンパ節転移と
腫瘍径である。インターネット上で臨床情報を入
力することにより,手術のみの治療を受けた場合
の再発・死亡リスク,化学療法を受けた場合の再
発・死亡リスクの減少割合,内分泌療法による再
発・死亡リスクの減少割合,化学療法と内分泌療
法双方を受けた場合の再発・死亡リスクの減少割
合が推定できる。乳癌患者の予後を乳癌遺伝子
セットの発現から予測し化学療法の適応指標とす
ることが検討されている。リンパ節転移陰性ホル
モン受容体陽性乳癌の場合には,21個の遺伝子
セットの発現から再発スコアを算出するOnco-
type DX

によって,再発スコアが低い場合には内

分泌療法のみ,高値の場合には化学療法を加える
方針選択の指標となるが,保険適用未承認であり
高額である。 

ガイドライン 薬物療法 CQ37

d)毒性と忍容性の推定

 再発・死亡リスクを減少させる化学療法,分子
標的治療,内分泌療法の推奨治療方法が決定した
後,治療の毒性を予想する。アンスラサイクリン
による脱毛,骨髄抑制,悪心・嘔吐,口内炎など
は頻度が多いが一過性の毒性である。悪心・嘔吐
は5HT

3

受容体拮抗型制吐薬,デキサメタゾン,

ニューロキノン1(NK

1

)受容体アンタゴニストの

適切な使用によりコントロール良好となった。好
中球減少に対しては適切にG⊖CSF,経口抗菌薬を
使用することにより重篤な感染症を予防すること
が可能である。頻度の少ない心毒性,感染症,二
次発癌などの副作用についても評価する。タキサ
ンによる脱毛は高頻度であるが,稀なアナフィラ
キシーに注意する。ドセタキセルによる浮腫は一
過性であるが,パクリタキセルによる末梢神経障

害は遷延することも多い。内分泌療法については
タモキシフェンによる子宮内膜癌,血栓症などに
注意する。アロマターゼ阻害薬は関節症状,骨密
度の低下に注意する。推定される治療の効果と毒
性のバランスをみて患者の嗜好を加味して総合的
に治療方針を決定する。

ガイドライン 薬物療法 CQ39,40

2

)術前薬物療法の決定

a)術前化学療法

 リンパ節転移陽性の場合または予想腫瘍浸潤径
が2 cm以上の場合には手術を先行したとしても
術後化学療法が必要である。腫瘍径3 cm以上の
場合には乳房温存が困難となる。術前化学療法に
よって腫瘍の求心性縮小が得られれば,乳房温存
手術が可能となる。術前化学療法は術後化学療法
に比較して生存率は劣らない。術前化学療法のも
う一つの利点は抗癌薬の感受性を知ることができ
ることである。術前化学療法の効果により得られ
た病理学的完全効果(pathological CR;pCR)を得
た患者は良好な長期予後を示す。
 術前化学療法としてはアンスラサイクリンやタ
キサンを含む治療が標準的である。術前化学療法中
に癌が進行する率は5%以下であるので,治療中に
手術不能になる可能性は少ない。アンスラサイクリ
ン,タキサンによる術前化学療法によってpCR率
は20~30%が得られる。HER2陽性乳癌の場合は
アンスラサイクリン治療後タキサンとトラスツズ
マブ併用療法によって40~50%のpCR率が得ら
れる。術後治療の方針は手術所見を再評価し計画
するが,ER陽性の場合は内分泌療法を5年間,
HER2

陽性の場合はトラスツズマブを合計で1年

間投与する。 

ガイドライン 薬物療法 CQ2

b)術前内分泌療法

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌においては,術
前内分泌療法は乳房温存率を改善させる。しか
し,術前内分泌療法中のPDを低率に抑える方法
は確立されておらず,術後内分泌療法と同等の予
後を有するかは明らかでない。また,再発リスク
が高い場合,たとえ術前内分泌療法が奏効したと
しても,化学療法を省略できる保証はない。閉経