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 これからの乳癌診療2015─2016

薬物療法

 佐伯俊昭・池田 正

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乳癌の個別化治療を行うためにサブタイプ分類が登場した。遺伝子に

よるこの分類は,がんのHeterogeneityを遺伝子レベルで解析しグルー
ピングするものと解釈する。なぜなら,クラスタリングが示すように,
あくまでも原発巣のMajorityな腫瘍細胞の性格を示すグルーピングだ
からである。しかし,本来の個別化とは,患者の個々の腫瘍ではなく,
腫瘍細胞1個1個に対する個別化であり,それ故,イタチゴッコのよう
に,次から次へと攻撃すべき相手が変化する。今後の大きな課題である。

さて,ER/HER2乳癌とトリプルネガティブ乳癌(TNBC)に大きくグルーピングされ,さらに

ER/HER2,TNBCの中のどのタイプかで感受性のある薬剤を選択,あるいは併用することが将
来的な薬物治療と考えている。

トリプリネガティブでは,7つのサブタイプ別に異なる治療戦略が考案され,Homologous 

Recombination Deficiency(HRD)と白金製剤の感受性,Synthetic lethalityとBRCAnessとPARP
阻害薬の開発などに期待がもたれている。またAndrogen receptor(AR)を標的とする抗AR剤
の導入も注目され,このほかのTNBCサブタイプ別の治療が開発中である。さらに,癌免疫
チェックポイントに関係する抗原を標的とする抗体治療なども有望と考える。

ER陽性乳癌では,CDK4/6阻害薬のようにRBの活性に関与する分子標的薬によりホルモン

剤耐性解除が期待される。勿論,mTOR阻害薬は日常使用しているが,今までのホルモン療法
の範疇を超えた安全性の管理が要求されている。HER2陽性では術前治療で得られた高い有効性
が,患者の予後に必ずしも反映していない結果がでており,pCRの意義を含めて,臨床試験の
デザインの再考,さらにエビデンスに基づく治療を粛々と行うことの重要性を改めて認識する必
要がある。

本章を担当いただいた古川孝広先生,岩田広治先生,山下啓子先生,3名の代表執筆者の素晴

らしい洞察と見識に基づく内容に感服し,ここに御礼申し上げる。読者の方々に是非とも熟読し
てい頂きたい内容である。

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