012
●月×日 電子レンジを使っていたら先生がおもむろに……
教科書などでは,電気メスの切開と凝固モードは温度の違いであり,
「蒸散」と「炭化」で用途を変えると書いてあるが,どうにもわかり
にくい。よくわからないのに「出血を抑えられるし,とりあえず凝
固モード使っておけばいいよね。切れないときには,ぐいっと押し
当ててぶった切る!」……ってのは,まずいんじゃない?
電気メスをちゃんと使い分けて!
電気メスは本体の中で高周波の強力な電圧を発
生させて,先端から人体に電流を流す仕組みに
なっているんだ。その結果,ジュール熱と高周
波熱の両方の作用で,組織が一瞬で数百℃に達
する。
つまり電気メスが熱くなるのではなくて,組織
の電気抵抗で熱を発生させることで水分が爆発
して切れるってことだね(図1)。
では質問。超音波凝固切開と電気メスではどち
らの組織が熱くなるか知っているかい。
電気メスでは? 組織が真っ黒けになることがよ
くあるし。ホットプレートの焼肉を考えると
200℃ぐらいかな~(図2)?
冴えてるね。では身を持って経験してみよう。
まずこの超音波切開装置の先を触って。
そうすか? あっちー!何させるんですか? む
ちゃくちゃ熱いじゃないですか?
ごめん,ごめん。100℃近いらしいよ。よく覆
布が溶けて穴が開いたりするだろう。君の好き
なロウソクをたらすより熱いよ。
そんな変な遊びしません!
おもしろくないから試さないが,電気メスの先
端は熱くならない。小学生のとき習った電球回
路の問題と一緒だ。電気抵抗のあるところだけ
が熱くなるのであって,電線そのものは熱くな
らない。つまり熱を発生するのは組織だけとい
うことだ。さらにいうと厳密には電気メスの先
端と組織の間にはわずかな隙間があって電気は
その隙間で放電しているんだ。
だから凝固のときに火花が見えるのか(図3)。
重要な電気メスの調整機能についても話そう。
「凝固」とか「切開」とか,モード(図4)があ
るよね。物理的に言うと,「切開モード」はさっ
き説明した高周波電圧を連続して発生させる
モードだ。「凝固モード」はそれより高い電圧を
断続的に発生させるモードだな。
切開モードでは組織を一瞬で数百℃まで熱する
から,触れた部分の水分が一気に蒸発してその
爆発によって切れるように見える。一方凝固
モードだと,組織を100℃程度に加熱しタンパ
クを変成させているんだ。だから熱変性する範
囲が広いから止血力は高いが,変性だけでは組
織は切れないんだ(図5)。
つまりは蒸散と変性ですか……。仕組みはわ
かったけど,だからっていちいち使い分けるの
は,しょーじき,面倒臭いですよね。
だから結局,切開しながら凝固もしていく「ブ
レンドモード」がよく使われているんだよな。止
血については。Woozingのようなびまん性の
出血にはソフト凝固がいいぞ。電圧が低いので
切開はできんが,タンパクの凝固変性を広い範
囲でもたらすのでよく血が止まるんだ。
切開・切離
秘伝
01