66 1) 母乳は低タンパク質 a母乳栄養の特徴母乳栄養の特徴は,①成長発育が緩やか,②感染症,アレルギー疾患,肥満,NCDsが少ない。栄養成分の特徴としては,①低タンパク質,②脂質としてドコサヘキサエン酸(DHA),オレイン酸が多い,③特有のオリゴ糖を含む,などが挙げられる。 b低出生体重児を含む乳児の健康発育・成低出生体重児に成長促進(catch up growth)の目的で乳幼児期に高タンパク質を含む高エネルギー食を与えると,その児の将来に肥満,NCDsを招来するリスクが高まる。その理由として,乳幼児期に高タンパク質食(人工乳,牛乳,肉類を多く含む離乳食)を与えると血中に分枝鎖アミノ酸のバリン,ロイシン,イソロイシンが増加し,特にロイシンはインスリン分泌刺激作用が強いため,その後の連鎖反応で成長ホルモン→インスリン様成長ホルモン1(IGF-1)が分泌され,脂肪細胞が増加する。それゆわが国の乳幼児成長曲線(厚生労働省版)は母乳栄養,人工乳栄養そして混合栄養の児の成長データを混合した値に基づき作成された曲線であるため,筆者らは日本人の完全母乳栄養児の成長曲線を作成した6)(日本母乳哺育学会webサイトよりダウンロード可)。 a体重・身長曲線厚生労働省の現行の体重曲線に比べ,完全母乳栄養児は男女とも1〜24カ月まで下方に推移し,女児の低パーセンタイル値域で顕著である。50パーセンタイル値は男女とも1カ月と4カ月時,10カ月と12カ月時で有意に低値を示した。なお,女児では18〜24カ月においても有え,人工乳に比しタンパク質濃度が低値の母乳はこれら乳児に至適な栄養である。ただし,低出生体重児(早産児)に対して生後数週間(在胎40週相当)までの高タンパク質を含む積極的栄養投与は,早産児に伴う神経発達障害を含む成長障害を改善する5)。 2) 母乳中の脂質乳児の最大のエネルギー源は脂質で,その必要エネルギーの40〜55%を供給している。エネルギー以外に必須微量栄養分を乳児に供給し,また消化管機能,脂質およびリポタンパク質代謝,神経機能そして免疫機能を支援する重要な役割を有する多価不飽和脂肪酸のDHA(n-3系C22:6n-3),アラキドン酸(AA,n-6系C20:4n-6),オレイン酸(C18:1n-9)そして少量ながら脂溶性ビタミンA,D,E,Kなどを含む。これら脂質は授乳児の抗感染・抗炎症作用や免疫反応の機能増強,神経学的発達,心血管機能の発達そして腸内細菌(例:bifido-bacteriaceae,Lactobacillaceae)の増殖などに関与する。意に低値であった。これらの違いには約10パーセンタイルの幅があった。身長の成長曲線は体重と同様,生後1〜24カ月まで,男女とも厚生労働省のそれと比べて有意に低値を示した。5パーセンタイル値の差は,24カ月時で男児1.8cm,女児2.7cmの開きがあった。 b頭囲の成長曲線体重や身長と逆に,頭囲の50パーセンタイル値は特に男児において1カ月,4カ月そして6カ月時,女児は4カ月時で厚生労働省に比べて有意に大きく,男女とも24カ月までの全体的推移も大きい傾向を示した。これらのデータ長に至適な栄養は母乳 3 乳幼児期の栄養 4 母乳栄養児専用の成長曲線の重要性
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