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1 古きよき内因性うつ病「俺ってうつ病の治療がうまいんじゃないか」と錯覚したことがあった。僻地の精神科に勤めていた頃である。来る患者、来る患者、よくなった。「うつ病は抗うつ薬飲ませて寝かしておきゃいい」という先輩医師のありがたいアドヴァイスに従って、抗うつ薬を出して休ませただけである。僻地では変にこじれた患者もいなかったから、そんな対応で大概よくなったのである。しかし大学に戻ってみるとそうはいかなかった。僻地勤務を終えて大学に戻ってほどなく、「親戚の婆さんを治した名医」が大学病院に異動してきたと聞いたといって、縁者の50歳ほどの男性が受診してきた。どうやら、わたしは僻地でお婆さんのうつ病をよくしたらしい。「らしい」というのは、お婆様のお名前を聞いても何となくしか思い出せず、どうせ前述の方法によってよくなったので大して印象に残っていないということだ。名医と言われるに値しないことは自分が一番よくわかっているので、正直なところ困惑した。この男性の症状とは、気が沈んでやる気がしない、まあ、うつである。ところがうつになった理由というのを聞いて、お口あんぐりだ。愛する娘が地域で一番成績のい

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