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現代では、気が沈む、落ち込む、滅入るといった表現が一般的だろうが、沈むだの落ちるだの、下の方に行ってしまう表現がとられる。こうした気分のあり方が抑うつ気分である。彼が殺した騎士長が唐突に現れて、ドン・ジョヴァンニがニ短調の和音とともに地獄に落ちても、ドン・ジョヴァンニは悔いてもいないし、落ち込んでもいなかろうが。それに伴って精神運動制止ないし精神運動抑制という状態が生ずる。いろいろな精神活動が滞ってしまうのである。意欲も出ないが、気力を振り絞ったところで行動もできない。思考も進まないし、感情も湧いてこない。それでいて何かしなければならないということはわかっているので気持ちは焦る。つまり焦燥である。自律神経系にも影響が生じて、消化管への影響で便秘になるのはよくあるし、不眠や食欲不振もここに含めて記載されていることも多い。不眠では中途覚醒や早朝覚醒が多いといわれている。そして日内変動も何らかの生物学的要因の存在を示唆する兆候として知られているが、典型的には抑うつ気分にしろ制止にしろ朝に強くて、夕方になると軽快するものである。内因性のうつ病と神経症性のうつ状態とを鑑別する所見として従来指摘されてきた

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