しかし、私のなかでは、どうもこの定期的に襲ってくる真っ暗な虚無のことを考えると、健康だけど〝病んでいる〟という状況は成立しうるなと思う。などというと、私の痛みがあなたのような健康で恵まれた人に分かるものか、という人が登場するのはただちに予想できて、あなたに比べて私は、という議論がここには持ち込まれる。そうすると、さらにその人に対しても紛争地帯の子どもはもっとなんとか、という話が対抗馬としてあてがわれる。人は誰も世界最弱にはなれない。世界最弱という立場から発していないと説得力のない言葉というのがしばしばあるが、人の健康については特にそういう文脈になりがちである。誰しもが固有の脆い側面があり、真っ暗な虚無に相当するものがある。それは比較するものではない。しかし、その主張は公共性を持たない。公開した瞬間に「あなたに比べて私は」の無限連鎖が始まってしまうからである。それが分かっているから、皆ギリギリに追い込まれるまで自分の脆さの存在を抑圧している。診療所に初診でやってくる人が「こんなので受診していいのかって迷ったんですけど」から口火を切ることが非常に多いのもそのためで、「休職中の2323
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