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東新宿から大江戸線に乗って帰る道すがら、このふわふわした生活は一体いつまで続くのだろうかと不意に思う。なにか生活に不自由しているわけではない。仕事はやりがいがあるし、人間関係にもなにひとつ問題を抱えていない。ときに苦手なことに取り組まないといけないのは心の重荷だが、とはいえそれは比較的よくある悩みであって発狂するほどのものではない。むしろぜいたくな悩みであるといえる。しかし、どうも私の中には真っ暗な虚無が広がっているように思う。うまく説明できないのだが、この虚無みたいなものが、私にそれなりに強い苦痛を発生させている。この虚無がときどきぶわっと体内に広がる瞬間があって、そういうときは自分が無になった感覚があるし、お祭りのときにだけ音楽に合わせて踊る道化師のような空っぽの存在なのではないかという気がしてくる。あるいは中が空洞になっている、人そっくりの人形とか。おそらくその虚無は、ほんとうは「偽者」なのではないかという、根底にある自分に対する疑念からきている。なにかが偶然うまくいく、褒められる、本物っぽい雰囲気が出る。だからなんとなく本物風に振る舞う。だけどその外面的なものと、2121

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