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42いずれにせよ「要はなにか」を封印して生きていきたいものである。このような文章を新宿駅構内のカフェで書いていたら、隣の席に座っていた50代くらいの太ったポロシャツ姿のおっさんと20歳前後の灰色チェックのワンピースを着た量産型女子が揉め始めた。なんでも、量産型女子はお茶をして1万円の対価をおっさんからもらう約束をしたそうなのだが、おっさんとしては「お茶」のなかにもっといろいろなものが含まれていると勝手に約束を拡大解釈して、量産型女子の髪や太ももを触ったりしたようなのである。量産型女子は怒っていた。最初は量産型女子の怒りが優勢だったのだが、だんだんおっさんも逆ギレし始めて、なんだ!と怒鳴って量産型女子の肩を掴みどこかに連れていこうとした。量産型女子が危険だった。私はバンと机を叩いて、「おい、やめろ、お嬢さんを離せ!」と叫んだのだが、あたりを見回すとそこは新宿のカフェなどではなく、どこか見たこともない田舎の、だだっ広い夕方の草原に私はひとりで立ちすくんでいた。その田舎の牧歌的な風景も、じっと見ているうちにだんだんと歪んでおかしな模様のようになり、私はそのなかに吸い込まれてしまいたいような心持になっていた。

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