第1章5.社会・経済的背景 69である9)。C社会的フレイル フレイルとは,高齢者における生理的予備能の低下によるさまざまなストレスに対する脆弱性であり,身体的な問題のみではなく,認知症やうつなど精神・心理的な問題,独居や経済的困窮などの社会的な問題を含む。高齢者において,社会的環境がその予後に大きな影響を及ぼしているにもかかわらず,社会的フレイルの定義に関するコンセンサスはまだない10)。 「令和3年版高齢社会白書」3)によれば,日本,米国,ドイツ,スウェーデンの高齢者の近所づきあいや友人の調査では(図8),互いに相談し合ったり,病気のときに助け合ったりする高齢者の割合は,日本がもっとも低い。日本は近所の人とのつき合いについて,「相談ごとがあったとき,相談をしたり,相談されたりする」,「病気のときに助け合う」と回答する割合が,他国と比較してもっとも低い水準となっている。また,家族以外の人で相談し合ったり,世話をし合ったりする親しい友人がいない割合はもっとも高い水準となっており,孤独・孤立などの社会的フレイルに陥る可能性が高い。社会活動の参加を促す取り組みや見守りの支援ができる体制づくりが必要である。 Makizakoら11)国立長寿医療研究センターのグループは以下5項目で,2つ以上に該当すれば社会的フレイルと定義して調査研究を進めた。①独表2 社会歴の聴取に必要な質問・家族状況および配偶者またはパートナーの有無・生活環境(何階に住んでいるか,集合住宅ならエレベータがあるか)・社会的ネットワーク(日常的な社会的接触の数および質)・職業歴・学歴・典型的な日常生活(例:どのように食事を準備するか,どのような活動が人生に意味を与えるか,どこに問題がおきている可能性があるのか)・介護者が必要か,利用できるかおよび介護者の能力(ケアの計画および/または提供に役立てるため)・外傷歴,喪失歴およびこれまでの対処力(coping)に関する情報・物質使用歴およびこれまでの法的問題に関する情報・患者自身が負う介護の責任(自分自身の症状またはその結果行われる介入が介護の妨げになるといけないと考え,自分自身の症状を報告したがらなくなることがある)・日常生活における心配事またはストレス因子・家庭,近隣,移動手段,または物品およびサービスの利用に関する環境的な問題・経済状態発者は臆することなく高齢者も対象とするべきであろう。 高齢がん患者の苦痛は,total painの考え方から,身体的,心理・精神的,社会的(経済的),スピリチュアルな苦痛に分けられる。社会的(経済的)苦痛は重要でサポートする対象である。また,高齢者の心理社会的苦痛は5Dで表され,死への恐怖(Death),他者への依存(Dependence),容貌の変化(Disfigurement),社会能力の低下(Dis-ability),他者との関係破綻(Disruption)とされている8)。B高齢者診療に必要な社会歴の聴取 高齢者の社会的問題は,タイムリーに適切な医療を提供する医療従事者の能力だけでなく,高齢者の疾患リスクおよび疾患の経験にも影響を及ぼす。 したがって,高齢患者の社会的問題について,医療者はよく知っておく必要があり,アセスメントをすることが必要である。そのためには,social history(社会歴)を十分聴取する必要がある。社会歴の聴取には表2に関する質問を含めるべき2.日常診療における高齢がん患者の社会・経済的苦痛の評価A高齢者の心理社会的苦痛“5D”
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