28 第1章 高齢がん患者の特徴―非高齢者と何が違うのか?低下する群の3つに分類可能であった。加齢に伴って臓器機能が低下するだけでなく,多様性=個人差が生じてくるということでもある。Imaiらは,日本国内の住民健診のデータから,10年間のクレアチニン値の変化を追跡できた120,727人を抽出し,腎機能の低下速度を評価した縦断研究の結果を報告している3)。これによると,70歳未満では糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)が50 mL/min/1.73 m2未満の場合にGFRの低下速度が速くなり,70歳以上では40 mL/min/1.73 m2未満になると速くなる。ある程度以上GFRが低下すると,その低下速度が加速し,結果として多様性=個人差が生じてくる(図2)。 生理機能の低下は,高齢者の身体機能の低下にもつながる。Flegらは21~87歳の男性435人,女性375人の地域在住者を対象に,最大酸素摂取量を計測し,中央値で7.9年間経過を観察した4)。10年単位で区切った年代層ごとに,その年齢,それぞれの生活習慣によって調整した,最大酸素摂取量(mL/min)の10年変化率を求めている。その結果,すべての年代層で最大酸素摂取量が減少していたが,20代では10年あたり3%,30代では6%,70代では20%を超える大幅な減少が認められた。特に40代以降では,男性のほうが女性より減少幅が大きかった。加齢に伴う除脂肪体重の(文献3より作成)80604020図2 腎機能の加齢変化加齢に伴い腎機能は低下するが,低下の仕方は多様である。40~4950~5960~6970~7980~89男性GFR(mL/min/1.73m2)(歳)40~4950~5960~6970~7980~89女性GFR(mL/min/1.73m2)80604020(歳)減少は,特に男性で目立ち,これで補正すると,最大酸素摂取量の加速度的な減少は同様に認められたが,性差はほとんどみられなくなった。また,加齢とともに最大心拍数は減少するが,心拍出量と動静脈血酸素分圧較差の積(最大酸素摂取量/最大心拍数)も加齢とともに減少し,特に男性で顕著であった。したがって,高齢になると最大酸素摂取量が加速度的に低下し,特に高齢期に除脂肪体重の減少が目立つ男性では,末梢筋組織における酸素供給が不足し,筋疲労をきたしやすくなると考えられる。その結果,運動を避けるようになり,より筋肉量が減少していくという悪循環に陥っていくのである。 「サルコペニア」という,筋肉量の減少・筋力低下で特徴づけられる変化は,80歳以上のおよそ半数に認められ5),縦断研究では死亡につながる独立したリスク因子であることが示されている6)。筋肉量の減少だけではなく,筋肉の質も悪くなり,脂肪や結合組織が浸潤し,筋細胞内および筋細胞間の脂肪変性が進んでいき,結果として大腿四頭筋の筋力が低下し,歩行速度が減弱し,生存期間も短縮する7)8)。「サルコペニア」は,加齢,性別,運動の多寡,除脂肪体重の減少などによって進行し,高齢者の多様性=個人差を表現する重要な表現型であるといえる。
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