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第2章1糖尿病6.高齢者に多い併存疾患への対応  195 糖尿病は高齢がん患者に多い代表的な併存疾患の1つである。糖尿病で通院治療中だった患者にがんが発見されるケースだけでなく,がんの診断を契機に糖尿病が発見されるケースも少なくない。糖尿病はがんと同様,年齢とともに増加する疾患であり,70歳以上では男性の4人に1人,女性の5人に1人が糖尿病と推定されている(図1)1)。さらに日本糖尿病学会の調査によると,日本人糖尿病患者の死因第1位はすでに1990年代からがんである。最新の2001~2010年次の調査では,がんによる死亡は全体の38.3%に上り,糖尿病合併症による血管障害(腎障害・虚血性心疾患・脳血管障害)での死亡の14.9%を大きく上回っている(図2)2)。今や「糖尿病患者はがんで亡くなる時代」といっても過言ではない。 また,近年の疫学調査から糖尿病(主に2型糖尿病)では大腸がん,肝がん,膵がん,乳がん,子宮体がん,膀胱がんなどのリスクが増加する一方,前立腺がんのリスクは低下することが示されている。日本人でも,糖尿病は大腸がん,肝がん,膵がんのリスクと有意な関連がみられた(表1)3)。 一人ひとりの糖尿病患者にとっては,糖尿病合併症による失明や透析,心血管疾患のリスクよりも,がんを併発して手術や化学療法を受けることのほうがより現実的な問題といえる。しかも,糖尿病を合併したがん患者は,糖尿病がない場合に比べ多くのがんで長期予後が劣ることが知られている4)。糖尿病を併発したがん患者では,がん治療のさまざまな場面で糖尿病への配慮が必要である。専門的な糖尿病管理を要することが多いため,適切なタイミングで糖尿病診療科に介入を依頼し,がん治療中の連携を図る。本項では,がん主治医としてぜひ知っておいてほしい高齢がん患者の糖尿病管理とその課題について概説する。 がん治療を進めるうえで,主治医として糖尿病についても以下のようなポイントを中心に評価を行う5)。A病型(成因と病態) 成因分類として①1型,②2型ないしは③その他の特定の機序,疾患によるものか(膵疾患や薬剤によるものなど)を把握する。病態としてはインスリン依存状態(インスリンが絶対的に欠乏し,生命維持のためにインスリン治療が不可欠)か,インスリン非依存状態かが重要である。1型糖尿病患者の多くはインスリン依存状態であり,がん治療中の不用意なインスリン中断によってケトアシドーシスに陥る可能性がある。B病歴・罹病期間 糖尿病診断の時期やきっかけを確認する。罹病期間の長い高齢者では進行した糖尿病合併症の存在に注意する。C通院状況 糖尿病について定期的な通院治療を受けているか,通院先や受診状況について確認する。患者のなかにはがん治療中の体調不良や通院の負担から,糖尿病の定期通院を中断してしまうケースもしばしばみられる。がん治療中も適宜糖尿病の通1.糖尿病とがん2.糖尿病の評価高齢者に多い併存疾患への対応6

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