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第2章4.機能評価に基づく治療法の選択  119表1 認知機能障害に関連した意思決定上の課題⃝場の雰囲気や話の流れがつかみにくい(社会的認知障害)⃝表情を読むのが苦手になる(社会的認知,実行機能障害)⃝注意が続かない(注意障害)⃝環境の変化に敏感(実行機能障害)⃝言語理解の障害(言語障害) ・ 言語の理解:複雑な表現,まれな言葉の概念から崩れやすい ・ 言語の選択・表出が難しくなる⃝記憶障害⃝比較検討が難しい(実行機能障害)⃝見通しや予測を立てることが難しい(実行機能障害)なっており,このギャップが意思決定を困難にしている6)。 一般診療における認知症診療の概要を示す。A軽度の認知症の場合 軽度の認知症では,手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living;IADL)が低下し,服薬管理や金銭管理は難しくなっている一方,毎日行うような身の回りのことは維持できている。家族も医療者も認知症に罹患していることに気づかず,見落とされていることがある。がん治療を開始して,せん妄を発症したり,予測をしていなかった脱水を生じたり,ケアや服薬のアドヒアランスの障害として気づかれる。B中等度の認知症の場合 日常生活動作(activities of daily living;ADL)にも障害が生じ始める。保清(口腔ケアや入浴)や食事の摂取に障害が生じるほか,アパシーにより身体活動度が落ち,身体機能が容易に低下するリスクがある。日常生活への支障に対して,家族や訪問看護などによる支援でどこまでリスクのカバーができるかを試しながら進めていく。 認知機能障害は,日常生活への支障とともに本人の意思決定にも影響する。急性期医療においては,入院患者の10~40%に認知機能障害が併存し,意思決定が十分にできない状態である7)。 認知機能障害は,単に「覚えられない」(記憶障害)に留まらず,意思決定にさまざまな影響を及ぼす(表1)。 医療とケアにおいて,本人の意思を尊重することは,臨床の基本原則である。しかし,本人が十分に状況を理解・把握することが難しい場合に,理解と十分な比較検討ができるよう支援をする必要がある。 意思決定支援とは,意思決定が困難な場面において,本人が自らの意思に基づいた決定ができるようにするためのさまざまな支援を指す。 従来「意思決定支援」という用語は用いられてきた。しかし,その意味するところは「進行がんの患者が精神的に厳しいなかで治療を選ぶ」ように,精神的に負荷の大きい場面での心理的支援の意味合いが中心であった。 しかし,高齢者が増加し,普段の診療のなかで認知症の人の診療をする機会が当たり前になってきている。言い換えれば,臨床場面で「そのままでは本人が決めることができない(意思決定能力が低下している)」場面が表れ,本人の残存能力を最大限活用し,問題や課題,その選択肢を本人が理解し,本人が自分で選択できるようにするにはどのように対応・支援をすればよいのかが現実の問題となってきている。このように,本人が決めることに主眼を置いた支援を意味して用いられている。 認知症の人の診療・ケアの場面では,しばしば支援者は,本人が望んでいることを直接本人に尋ねることをせずに,家族や介護者に尋ねがちである。その背景には,本人から意向を聞き出すのには時間・手間がかかることや,認知症と診断されると3.認知機能障害と意思決定能力4.意思決定支援とは5.障害者権利条約の批准と意思決定支援ガイドラインの公開

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