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1意思決定支援118  第2章 高齢がん患者の主治医になったら? 超高齢社会の到来を迎え,高齢者人口の増加とともに,がんに罹患する者のうち,65歳以上の割合がすでに73%に上るようになった1)。がんで死亡する割合からみると,同じく86%を占めている。まさにがんは高齢者の慢性疾患の1つの様相を呈するようになった。 あわせて,がん治療の進展とともに,分子標的薬などが登場し,従来よりも負担の少ない治療が主流になりつつある。その分,高齢者においてもがん治療の適応が拡がり,老年医学的管理を行いながら治療を進める機会も増えつつある。 このようななかで,高齢がん患者の治療方針を決めるにあたり,意思決定支援が今まで以上に強調されるようになってきた。ここでは,意思決定支援が求められるようになった背景と,具体的な対応方法について紹介をしたい。 高齢がん患者の診療において,意思決定支援が必要となる背景には,認知症の併存の問題がある2)。 認知症は,①正常に発達した知的機能が持続的に低下する(知的障害を除く),②複数の認知機能障害がある,③その結果,日常生活や社会生活に支障をきたしている,の3点を満たし,かつ意識が清明である(せん妄のような意識障害ではない)状態を指す。 認知症は,認知機能障害や関連する症状が進行性に低下し,余命を規定する疾患である。認知症の場合,認知症が直接の死因になることは少なく,多くの場合は誤嚥を中心とした感染症を理由として死亡する割合が高い。そのため,悪性腫瘍ほど生命予後を精密に予測することは難しい。しかし,認知症が高度になると誤嚥が顕在するため,平均的な生命予後は6カ月~1年と見積もられる。結果として,代表的な疾患であるアルツハイマー型認知症の場合,診断されたときからの平均的な余命は,約4~6年である。 がんと認知症の併存についての検討は少ないが,英国では,新たにがんと診断された人の3分の1以上が75歳以上であり,そのうち,結腸がん患者の10%,乳がん患者の7.4%,前立腺がん患者の5.1%が認知症の診断を受けていた3)。わが国では詳細な検討は少ないが,新たに肺がんと診断され,治療方針を決める際に,Mini‒Mental State Examination(MMSE)で23点以下であった割合が10%であった4)。またわが国の死亡小票を用いた遺族調査では,亡くなる1カ月前までに認知症の診断を受けた割合は13%であった5)。おそらく超高齢社会を反映し,わが国は英国など,他の先進諸国と比較しても高いことが想定される。 がんと認知症の両者が併存すると,患者本人に加え,家族や医療者に複雑な条件を付加する。特に大きく影響を受けるのが,治療の意思決定,治療不耐,療養場所の問題である。 認知症をもつがん患者は特に治療不耐を経験することが多く,そのため治療の選択肢が制限される。結果として予後の悪化と生存率が低下する。 しかし,認知症とがんの両者の診断を受けた人のケアや治療,経験に関する研究は少ないのが現状である。そのため,認知症をもつがん患者の最善の治療方法については,医療者間でも意見が異1.認知症2.がんと認知症機能評価に基づく治療法の選択4

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