精神心理的苦痛が強い遺族への治療的介入Ⅲ章の人なりに生きていくことを共に考える,カウンセリングの場も提供しています。カウンセリングでの具体的な営みはグリーフケアで行われている関わりと変わりませんが,遺族の変容のプロセスには長い月日を要すため,遺族と課題や目的を再共有し進めていくことになります。心理師は,遺族が悲嘆を見つめ直し,深い悲しみの世界と日常生活の現実世界を行き来しながら,その人なりの生きていく価値を再構築していくことを支えていきます。 心理師が行っているこうしたグリーフケアにおいて,精神症状とその治療の必要性に関して,精神医学的な評価も併せて,継続的に行っています。遺族の希死念慮が切迫していたり,強い抑うつ症状を呈している場合,または複雑性悲嘆反応が遷延している場合には,遺族に精神症状の治療を受ける必要性を説明し,当院精神科で治療が受けられるよう調整を行っています。精神科医と定期的に連携を図りながら,薬物療法や入院治療などが必要な遺族を見落とさず,適切な治療を受けることができるよう常に心がけ支援に従事しています。 当院で心理師が行っているグリーフケアの実践について紹介しました。遺族のなかには悲嘆に関する苦悩を自由に表出することができる場が限られている人がいます。医療者は遺族の心理的な安全が確保され,遺族のペースで悲嘆を自由に語ることができる環境を提供することが求められています。医療者は長期にわたり寄り添い支えていく心構えをもち,それと並行して,遺族のニーズや精神症状を評価しながら支援することが大切であると考えています。(伊藤嘉規)コラム6.公認心理師によるグリーフケアの実践 85
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