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 グリーフとは,日本語で「悲嘆」を意味し,大切な人との死別などの喪失体験に基づいた深い悲しみなどのさまざまな感情の反応を指しています。悲嘆反応は,誰にでも起こりうる自然な反応ですが,人によっては感情の反応だけではなく,身体症状や社会的機能の障害として表れ,表現型は多様です。また,この反応は喪失対象との親密さと関連し,親密さがより大きいほど,より強いものと感じられたり,個人のなかで時間経過とともに感じ方が変化していくため,個別性が非常に高いことが知られています。 名古屋市立大学病院(以下,当院)では,悲嘆に関して苦悩する人が気持ちのつらさに関して相談することができる「グリーフケア外来」を2020年11月に開設しました。本コラムでは,当院におけるグリーフケア外来での経験について紹介します。 グリーフケアとは悲嘆に苦悩する人へ寄り添い支援することであり,喪失体験に接する機会がある全医療者に共通する普遍的な支援です。当院のグリーフケア外来では,公認心理師(以下心理師)がグリーフケアに従事しており,完全予約制の自由診療で行われています。このグリーフケア外来は,病院ホームページで広報されており,死因を問わず大切な人を亡くし,気持ちのつらさをかかえている遺族が自由にアクセスすることができる体制を整えています。 外来を受診した遺族に,まず心理師が悲嘆に関する苦悩を自由に語ってもよいことを伝え,遺族の感情表出を促すとともに,遺族の語りを丁寧に聴きながら,主訴やこれまでの経緯を確認します。心理師はできるだけ遺族の語りを妨げないよう心がけて聴いていきますが,遺族の経験した喪失体験を完全に追体験することは困難であるため,遺族の気持ちを察し,その方に寄り添い支える姿勢を大切に臨んでいます。また,心理師は,遺族の語る感情や認知体験が,誰にでも起こりうる自然な反応であることや,悲嘆と向き合うには時間を要することを保証し,その人なりの悲嘆への取り組み方について話し合っていきます。遺族にとっては,自身の体験している悲嘆を語るプロセスが,深い悲しみの渦中にある言葉にならない喪失体験を見つめ直し,気持ちを整理していく時間につながっています。 一方で,グリーフケアが提供されたとしても,遺族にとって喪失体験が心的な外傷体験として知覚され,言葉にすることで空虚感や罪責感,憤りなどの感情に直面し,一時的に遺族の苦悩を助長することがあります。そのため,当院での支援では,遺族の心理的な安全が確保された空間の提供と同時に,そのなかでその人自身の悲嘆と向き合うペースを尊重し,ケアを提供することを大切にしています。 また,グリーフケア外来を受診する人のなかには,「新しい自己を見つけ出したい」「故人とのつながりについて新しい意味を見つけ出したい」などと,故人との関係性を語るなかから,遺族自身の悲嘆に関わる課題に主体的に取り組みたいと考える遺族もいます。こうした遺族には,遺族自身の課題の対処に焦点を当て,遺族が大切な人を失った世界でそ84 コラム6公認心理師によるグリーフケアの実践

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