10217T
4/16

きるような要因が含まれている。死別前の家族に介入を行うことが,遺族となった後の精神症状などのアウトカムを改善するかどうかを明らかにした研究は少ないが,死別前からの家族ケアが有効である可能性は示唆されている。1) 予期悲嘆 予期悲嘆については,臨床的には,終末期の患者の家族の心理状態の理解に役立つため,家族の状態をアセスメントしていく際には重要な視点となる。家族が死別前にあらかじめ予期悲嘆を経験しておくと,急に亡くした時よりも死別後に生じる悲嘆は緩和される可能性がある10)。一方で,予期悲嘆が強く,患者の死を迎える準備ができていない人は死別後の複雑性悲嘆やうつ症状をかかえる可能性が高いとされる11)。 患者が存命中の家族ケアの現場では予期悲嘆を適切に取り扱うことが重要とされている。しかし,予期悲嘆に対応していくことで,死別後の悲嘆が軽減されるかについては,すべての研究で同じ結論が得られているわけではなく,賛否両論がある状況となっている。2) 家族間の関係性 死別後の精神的苦痛に関連するリスク要因として,患者と家族の愛着の問題が知られている12)。Kissaneらが開発したfamily focused grief therapy13)では,家族の死別反応の軽減の予防を目的に,終末期から死別後に家族を中心に介入することで家族の機能を高める。そのプログラムの内容は,①家族内での衝突を探索する,②考えや気持ちを話す,③家族間の問題を扱う,であり,4~8回のセッションから構成される。家族間での衝突や問題が生じている家族においては,死別後のうつ症状の軽減に有用であることが示されている。 一方,死別前の家族のニーズや,病的な不安や抑うつに対して介入を行い,それらの効果を検証した研究も進められている。そのような介入プログラムにより,家族の不安,抑うつ,患者との間のコミュニケーションの改善などの効果が示されつつある14,15)。 例えば,介護者としての役割への支援として,介護やケアの方法に関する情報提供が有用とされる16)。また,家族がかかえているストレスに対して,うまく適応できるよう対処方法を共に考えていくことが重要である。一般的に問題を回避したり,アルコールなどに依存するコーピングは不安や抑うつを悪化させる。家族は自分自身の健康を維持していくことが重要であるが,患者のために時間や労力を割くことが求められるため,家族は以前より健康状態が悪化してしまうことがある17)。健康の維持のために,セルフマネジメントを適切に行っていくように伝えていくことも重要である。 家族は,患者にとって重要な介護者でありながらも,「第二の患者」と呼ばれるよう36  5 おわりに

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る