悲嘆と家族・遺族のケアⅡ章しい生活への適応の問題がある。一部の家族においては休職や退職を余儀なくされたり,友人や他の家族との時間を十分に作れず社会から孤立してしまうことも少なくない。介護という行為だけでも大きな負担であり,それに伴い身体面だけでなく精神面にも影響を及ぼす。家族のうつおよび不安の有病率はそれぞれ42%および46%とされ5),それは患者と同等あるいはそれ以上とまでいわれている6)。 さらに,がん等の生命を脅かす疾患をかかえる患者の家族の心理的な反応の特徴として,患者との死別を予期し,実際の死別の前に悲嘆が開始されることがある。これを予期悲嘆(anticipatory grief)と呼ぶ。予期悲嘆は,患者を近いうちに喪失することに対する反応として生じるものであり,死別後に生じる悲嘆反応と同様に悲しみなどの感情を伴う苦痛をもたらすものである。 代表的な緩和ケアモデルにおいて,遺族ケアはモデルのなかに明確に位置づけられ,患者だけでなく家族に対しても身体的,精神心理的,社会的,スピリチュアルなニーズに対応することと説明されている7)(図5)。医療者による支援は,がんの治療中では,患者の治癒や延命,奇跡への期待を家族と共に願うことにあり,終末期に近づくにつれて患者や家族の希望を支え,安らぎや人生の意義や目的を見出していく支援に変化していく。このような経過を共に寄り添うことが緩和ケアモデルにおける支援として示されている8)(図5)。 死別前の家族の抑うつは,遺族となった後の抑うつと関連するということが示されている9)。死別後の悲嘆反応やうつ症状などの精神的苦痛に関連するリスク要因はいくつかあり,そのなかには,死別前に介入することで,死別後の精神的苦痛を緩和で総論4.ケアの対象としての患者の家族 35終末期ケアがん患者との死別がんに対する治療時間図5 緩和ケアモデル〔Ferris FD, et al. 20027); Liben S, et al. 20088)より引用改変〕治癒, 延命, 奇跡への期待多職種による緩和ケア安らぎ, 人生の意義の発見への期待遺族ケア 3 緩和ケアモデルにおける家族ケアの位置づけ 4 家族への対応
元のページ ../index.html#3