4ケアの対象としての患者の家族 がん等の身体疾患による死は,自死や事故による死亡とは異なり,ある程度死期を予期できる特徴がある。そのため,患者の家族は死別前から喪失を予期して悲しみに襲われるものである。しかし,死期を予期できるということは死別前から家族を支援できる利点として考えることもでき,死別後の悲嘆や精神的苦痛の悪化の緩和を図り,患者と死別した後の生活について事前に準備することができる。臨床的には,医療者による死別前からの家族へのケアは重要とされるが1),死別後の遺族の精神状態へ与える影響についての研究は数が少なく,構造化され有効性が示された支援方法は十分に明らかになっていない2)。ここでは,がんを中心とした生命を脅かす疾患をかかえる家族の状況を整理し,家族に対するケアについて述べる。 家族には,患者の日常生活や気持ちを支え,患者の医療に関して状況を共有して介護を担っていく介護者としての立場と,家族が病気を患うことにより発生する多様なストレスによる負担をかかえる一個人としての立場がある。特に,医療現場においては,患者中心に物事が進み,家族に対しては介護者としての役割が期待されることが多い。諸外国では,家族はinformal caregiverと表現されることが多く,formal caregiverと呼ばれる医療者や介護者とは異なり,金銭などの利益を得ることはなくケアを提供する存在とされる。さらに,普及が図られているアドバンス・ケア・プランニングにおいては,家族は患者が意思決定能力を失った時の代理決定者としての役割を担っていくことが望まれると示されている3)。「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」4)においても,患者本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて,特定の家族などを患者の意思を代理する者として前もって定め,患者本人,家族などと医療者が繰り返し話し合いをしていくことの重要性が明記され,患者の支援をしていく立場がより一層強調されるようになってきている。 家族は身体的,精神的,社会的,実存的な問題を多くかかえている。その要因の一つとして,家族は実質的なケアを患者に提供することが求められていることにある。患者の介護や症状管理,見舞いや付き添い,患者への情緒的な支援など,様々である。また,治療方針の決定や終末期の過ごし方などに関する意思決定への参加においても家族への負担は大きい。他にも,入院費や治療費などの経済的問題や,介護による新 1 がん医療などにおける患者の家族の状況 2 患者の家族がかかえている問題総論
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