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 Shearら2)は,複雑性悲嘆質問票30点以上の18歳以上の成人遺族395名を対象とし,抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬シタロプラム(本邦未承認)の効果を無作為化比較試験で検証した。シタロプラム群101名,シタロプラム+複雑性悲嘆治療(修正対人関係心理療法にPTSDに対する認知・行動療法に基づく技術を加えた治療法)群99名,プラセボ群99名,プラセボ+複雑性悲嘆治療群96名の4グループの比較試験であった。主な尺度として複雑性悲嘆質問票を用いた。シタロプラム群とプラセボ群を比較した場合,介入12,20週間後の複雑性悲嘆の程度に有意差は認められなかった。シタロプラム+複雑性悲嘆治療群99名は,プラセボ+複雑性悲嘆治療群96名と比べて,介入20週間後の複雑性悲嘆の程度に有意差は認めなかった。シタロプラムによる重大な有害事象は認められなかった。 Pasternakら4)は,重要他者の喪失後に大うつ病エピソードが始まった高齢の成人遺族13名を対象とし,三環系抗うつ薬ノルトリプチリン(平均投与量49.2 mg/日)の効果を,比較群のない前後比較試験で検証した。主な尺度として,典型的な悲嘆の認知調査票,ヤコブ悲嘆強度を用いた。複数の悲嘆の評価尺度では改善を認めなかった。治療継続困難な有害事象は認めなかった。 Zisookら5)は,重要他者の喪失8週間以内で,喪失後から大うつ病エピソードが始まった成人遺族22名を対象とし,抗うつ薬のノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬であるブプロピオンSR(150~300 mg/日)(本邦未承認)の効果を12週間の比較群のない前後比較試験で検証した。主な尺度として,複雑性悲嘆はTypical beliefs questionnaire,複雑性悲嘆質問票を用いた。複数の悲嘆の評価尺度の有意な改善を認めた。口喝,頭痛,不眠などの有害事象を20名で認め,4名が脱落した。【解説:臨床疑問2a/2b】 成人遺族が経験する精神心理的苦痛に対して向精神薬を用いることは臨床現場で一般的に行われている。Kingらa)の後ろ向きコホート試験においても,その使用頻度の高さが報告されている。がんで亡くなる6カ月前にがんと診断された配偶者またはパートナーを喪失した15,748名は,喪失を経験していない76,381名と比較して,喪失の前後から開業医への通院,抗うつ薬・催眠薬の処方の割合が有意に高かった。一方,Zisookらb)は,Shearら2)の無作為化比較試験を死因で二次解析して,シタロプラムの服薬遵守率を検証した。自殺による遺族の12週間のシタロプラムの服薬遵守率は35.7%で,事故/他殺による遺族の50.0%,自然死による遺族の79.4%と比べて有意に低かった。 今回成人遺族が経験する精神心理的苦痛への向精神薬の有用性を検証した研究についてシステマティックレビューを行った結果,抗うつ薬の有用性を検証した研究のみであった。抑うつ症状に対する抗うつ薬の有用性を検証した無作為化比較試験は2件(有効1件,無効1件),比較群のない前後比較試験は3件(有効3件,無効0件)であった。複雑性悲嘆に対する抗うつ薬の有用性を検証した無作為化比較試験は1件(有効0件,無効1件),比較群のない前後比較試験は2件(有効1件,無効1件)であった。88 

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