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精神心理的苦痛が強い遺族への治療的介入Ⅲ章〈複雑性悲嘆とは?〉死別後,故人への思慕やとらわれなどが長期間継続し,日常生活に支障をきたした状態を複雑性悲嘆という。(Ⅲ章-1「診断と評価」参照)療群96名と比べて,介入20週間後の抑うつ症状の程度は有意に軽減された。シタロプラムによる重大な有害事象は認められなかった。 Hensleyら3)は,重要他者の喪失の1カ月前または12カ月後に大うつ病エピソードが始まった18歳以上の成人遺族30名を対象とし,抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラム(平均投与量10.0 mg/日)の効果を,ハミルトンうつ病評価尺度,モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度,複雑性悲嘆質問票を用いて,12週間の比較群のない前後比較試験で検証した。効果量が特に大きかったハミルトンうつ病評価尺度,モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度では50%以上の改善を認めた。治療早期に,頭痛,嘔気などの有害事象で3名が脱落した。 Pasternakら4)は,重要他者の喪失後に大うつ病エピソードが始まった高齢の成人遺族13名を対象とし,三環系抗うつ薬ノルトリプチリン(平均投与量49.2 mg/日)の効果を,比較群のない前後比較試験で検証した。主な尺度として,抑うつ症状はハミルトンうつ病評価尺度,ベック抑うつ調査票を用いた。複数の抑うつ症状の評価尺度の有意な改善を認めた。治療継続困難な有害事象は認めなかった。 Zisookら5)は,重要他者の喪失8週間以内で,喪失後から大うつ病エピソードが始まった成人遺族22名を対象とし,抗うつ薬のノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬であるブプロピオンSR(150~300 mg/日)(本邦未承認)の効果を12週間の比較群のない前後比較試験で検証した。主な尺度として,ハミルトンうつ病評価尺度を用いた。抑うつ症状,複数の悲嘆の評価尺度の有意な改善を認め,口喝,頭痛,不眠などの有害事象を20名で認め,4名が脱落した。【採用文献の概要:臨床疑問2b】 本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験が1件2),比較群のない前後比較試験が2件4,5)あった。臨床疑問2 87臨床疑問2bがん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験する複雑性悲嘆に対して,向精神薬を投与することは推奨されるか?▶▶推奨文がん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験する複雑性悲嘆の軽減を目的として,抗うつ薬等の向精神薬を投与しないことを提案する。■推奨の強さ:2(弱い)■エビデンスの確実性:C(弱い)

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