8.1 8.2 TMBとは がん細胞は紫外線,喫煙などの外的要因,テモゾロミド等の治療介入,またはDNA修復機構に関連する遺伝子の先天的または後天的な原因により,正常細胞と比較して多くの遺伝子変異を有する特徴を持つ1,2)。腫瘍遺伝子変異量(tumor mutation burden:TMB)とは,がん細胞が持つ体細胞遺伝子変異の量を意味し,100万個の塩基(1メガベース;1 Mb)当たりの遺伝子変異数(mut/Mb)を単位として表される。前臨床研究において,がん細胞のパッセンジャー遺伝子変異の中でもnonsynonymous変異によって新規に生じたペプチドがネオアンチゲンとして抗原提示細胞の表面の主要組織適合遺伝子複合体(major histocom-patibility complex:MHC)によって提示され,浸潤している免疫細胞によって非自己と認識されている可能性が報告された3,4)。MHCによる抗原ペプチドの提示を予測するための次世代シーケンス技術および計算手法が開発され,TMBが高いヒト腫瘍と類似するTMBが高いマウス腫瘍では,T細胞によって認識されるネオアンチゲンを有していることが報告された4)。また,TMBの増加に伴う免疫原性が非臨床試験によって確認されていることから,その生物学的特徴はがん種横断的に適用できることが示唆されている5,6)。さらに,Schum-acherとSchreiberによるレビューでは,体細胞変異が10 mut/Mbを超える腫瘍(150 non-synonymous mutationに相当)は,免疫系に認識されるネオアンチゲンが生じる可能性が示唆された7)。TMB検査法 TMBは次世代シーケンサーを用いて全ゲノム(whole genome sequencing:WGS)・全エクソーム(whole exome sequencing:WES)で従来評価されてきた。しかし,近年ターゲットシーケンスパネル(遺伝子パネル検査)でも高感度にTMBを定量することができることが報告されてきている8—11)。TMB解析領域が1.1 Mb領域のゲノムシーケンスを行う遺伝子パネル検査ではWES TMBと相関することから,適確なTMB測定が可能である。一方,0.5 Mb未満では相関性が低くなるといわれている8)。このTMB値(TMBスコア)の算出に用いるアルゴリズムについては,各遺伝子パネル使用に最適と考えられる設計がされており,パネル毎の知的財産のため公開されておらず,ばらつきがあることが問題となっている(表8—1)。現在,Friends of Cancer Research(FoCR)を中心にTMB harmonization projectが進行中であり,TMB統一化が進められている。 FoCRにおいてそれぞれの遺伝子パネル検査により算出されたTMBスコアとWES TMBスコアとの相関が検証されており,がん種によりばらつきはあるものの,良好な相関性を示していることが報告されている(スピアマン相関係数0.79—0.88)。本邦においては包括的がⅣ TMB—Hを有する固形がん61TMB‒Hを有する固形がんⅣ
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