10213T
3/16

Ⅱ章 論1) 患者とその家族 せん妄の本態は意識の障害であることから,せん妄から回復した時には,患者はせん妄の体験を想起できないと考えられがちである。しかしながら,多くの患者がせん妄体験について想起でき,その体験について恐怖や不快感を感じていたことが報告されている6,7)。また,転倒・転落などの事故につながること8),二次合併症を併発し,入院の長期化を招くこと9,10)など治療に直接影響を及ぼすこともある。長期的には認知機能低下と関連すること10,11),さらには,死亡率の増加につながるといった生命予後にも影響することが報告されている9,10)。 せん妄を発症した患者の家族も,患者がせん妄となることで強い精神的苦痛を経験することが知られている6,7)。特に終末期にみられるせん妄については,家族の解釈や感じ方には個別性も大きく,回復可能なせん妄におけるケアと異なる側面があることが報告されている12)。2) 医療的側面 せん妄への対応,特に医療者が少なくなりがちな夜間における過活動型せん妄への対応は,医療者にとっても心身ともに強い疲弊感をもたらす。せん妄への介入がスムーズに進まず,症状が遷延した場合などは,医療者,特に看護スタッフのバーンアウトの引き金となることが現実問題として起こりうる。また,入院の長期化による医療コストの増大を招くことも現実的には大きな問題となる3,13)。 以上のように,せん妄は,がん医療に関わる医療者にとって必ず遭遇する病態の一つであり,患者とその家族のみならず,医療的にも多岐にわたるデメリットを生じさせる。がん医療におけるせん妄の特徴を理解し,適切な予防と対策を行うこと,そして患者とその家族の心情に配慮したコミュニケーションを大切にすることは,がん医療に携わる医療者にとって極めて重要と考えられる。 がん患者におけるせん妄には,がん以外の臨床状況におけるせん妄などと異なるいくつかの特徴がある。 第一に,がん患者におけるせん妄は,その直接的な要因(直接因子)に特徴がある(P75,臨床疑問4参照)。せん妄の発症に関与する直接因子としては通常,身体的要因と薬剤要因の2つが挙げられる。がんは基本的に進行性の病態を示すことから,経過とともに身体面での脆弱性は増し,併発する症状も増えていく。そのため,せん妄発症に影響するさまざまな身体的要因が併存しやすくなる。なかでも骨転移などを背景とした高カルシウム血症,脳転移などは,がん患者において特徴的な直接因子である。一方,抗がん薬などの治療薬に加え,さまざまな合併症に対する症状緩和目的の薬剤も増えていくことから,多剤併用になりやすい。特に,がん医療ではオピオイドやステロイドなどの使用頻度が高く,これらの薬物使用を直接因子とするせん妄に遭遇することが多くある。さらに実際の臨床では,このような身体的要因,薬剤要因が複合1.がん医療におけるせん妄 13総 4 がん患者におけるせん妄の特徴

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る