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1がん医療におけるせん妄 せん妄とは,身体的異常や薬物の使用を原因として急性に発症する意識障害(意識変容)を本態とし,失見当識などの認知機能障害や幻覚妄想,気分変動などのさまざまな精神症状を呈する病態である1)。またせん妄はその精神運動性の程度により,過活動型,低活動型,活動水準混合型*に分類することができる。過活動型とは,精神運動活動の水準が過活動であり,気分の不安定性,焦燥,および/または医療に対する協力の拒否を伴うことがあるものであり,低活動型とは,精神運動活動の水準は低活動であり,昏迷に近いような不活発や嗜眠を伴うことがあるものである。一方,活動水準混合型は,注意および意識は障害されているが,精神運動活動の水準は正常であるか,その活動水準が急速に変動する例を含むものである2)。 せん妄は,がんに限らず,身体疾患を有する入院患者,特に集中治療室(ICU)や心臓手術後など,身体的な重症度や医療的処置の侵襲度の高い状態でよく認められることが知られているが,がん医療の現場においても高頻度で認められることが報告されている。一般病院入院患者におけるせん妄有病率はおおよそ10~30%3),治療以外の目的で入院した高齢進行肺がん患者においては40%4),緩和ケア病棟入院時では42%,さらに死亡直前には88%に認めたとの報告がある5)。 日本は超高齢社会を迎えており,2020年10月1日の時点で日本の高齢化率は28.8%にまで達しているが,加齢はがんの危険因子の一つであることを考えると,今後ますます高齢がん患者は増えていくことが予想される。そして,高齢はせん妄の準備因子(P19,Ⅱ章‒2‒4「せん妄の原因」参照)でもあることから,がん医療の現場では,今後ますますせん妄への対策が強く求められることになる。 せん妄は多方面にわたり多くの負の影響を及ぼす。それらの影響についてここでは,患者と家族,医療的側面に分けて述べる。*ここではDSM-5の表記に基づき「活動水準混合型」と記載しているが,他の項では単純に「混合型」と表記している。 1 せん妄とは何か 2 がん患者におけるせん妄の頻度 3 せん妄によるさまざまな影響

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