2.1
がんとミスマッチ修復機能
DNA複製の際に生じる相補的ではない塩基対合(ミスマッチ)を修復する(mismatch
repair:MMR)機能は,ゲノム恒常性の維持に必須の機能である。MMR機能が低下してい
る状態をMMR deficient(dMMR),機能が保たれている状態をMMR proficient(pMMR)
と表現する。MMRの機能欠損を評価する方法としてMSI検査,MMRタンパクに対する免
疫染色(immunohistochemistry:IHC),NGSによる評価法がある(詳細は「2.4 dMMR判
定検査法」を参照)。MMR機能の低下により,1から数塩基の繰り返し配列(マイクロサテ
ライト)の反復回数に変化が生じ,この現象をマイクロサテライト不安定性という。マイク
ロサテライト不安定性により,腫瘍抑制,細胞増殖,DNA修復,アポトーシスなどに関与
する遺伝子群に修復異常による変異が集積し,腫瘍発生,増殖に関与すると考えられている。
マイクロサテライト不安定性が高頻度に認められる場合をMSI—High(MSI—H),低頻度に認
められるまたは認められない場合をMSI—Low/Microsatellite Stable(MSI—L/MSS)と呼ぶ。
一部のがんでは,MMR機能の低下が認められる。散発性のdMMR固形がん(sporadic
dMMR tumor)では,主にMLH1遺伝子のプロモーター領域の後天的な高メチル化
3)
が原因
となることが多い。主には,MMR遺伝子変異やプロモーター領域の異常メチル化による発
現低下などが知られている。一方,先天的に,MLH1,MSH2,MSH6,PMS2遺伝子の病
的バリアントや,MSH2遺伝子の上流に隣接するEPCAM遺伝子の欠失
4—6)
が片アリルに認
められる場合をリンチ症候群と呼び,dMMRに起因して発生する腫瘍をリンチ症候群関連
腫瘍(Lynch—associated tumor)(「3.リンチ症候群」参照
7,8)
)と呼ぶ。稀な疾患として
MMR遺伝子の両アレルに先天的な病的バリアントを認める先天性ミスマッチ修復遺伝子異
常症(constitutional mismatch repair deficiency:CMMRD)も報告されており,小児期よ
り大腸がんあるいは小腸がんを発症することが知られている
9)
。消化器がん以外の合併,特
に脳腫瘍の発症頻度が高く,髄芽腫や高悪性度グリオーマを生じるTurcot症候群として知
られている。また,CMMRDには,急性白血病の発症も知られている。
2.2
dMMR
固形がんのがん種別頻度
dMMR固形がんは様々な臓器に認められ,その頻度は,人種,がん種,病期,遺伝性か散
発性かにより大きく異なる。MSI検査またはIHC検査(検査法については「2.4 dMMR判
定検査法」参照)によるdMMR固形がんの頻度は,対象集団や検査法の違いも含め報告に
よってばらつきが大きく,特にdMMRの頻度が低い固形がんでは実態が把握できていない
のが現状である。
また,NGS法を用いた(検査法については「2.4 dMMR判定検査法」参照)臓器横断的
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Ⅱ dMMR
dMMR
Ⅱ