1.1

 

背景と目的

 国立がん研究センターがん情報サービスによると,2016年に新たに診断されたがん(全国
がん登録)は995,132例,2017年にがんで死亡した人は373,334人であり,死因の第1位で
ある

1)

。がんの治療成績向上は国民にとって非常に重要な課題である。がん薬物療法の分野

では,有効な新規治療薬の登場とともに治療成績が向上し,予後が改善してきた。同時に治
療前に有効性が期待できる集団を同定するバイオマーカーの開発も,がんの治療成績向上に
寄与してきた。
 従来がん診療は,疾患の病理学的診断と進行度の評価,治療の益と不利益,患者の嗜好な
どから多角的に評価し行われてきた。この中で,疾患の診断にあたっては,原発巣の同定と
組織型の確定は,治療方針決定の上で基幹をなす重要な診療情報であった。近年の分子生物
学的進歩により,腫瘍の様々な生物学的特性が明らかにされるに従い,疾患の臓器特性を超
えた臓器横断的「Tumor—agnostic」な薬剤の臨床開発,2つの薬剤で承認がなされてきてい
る。このような診療の変化により,診療の現場において以下のような懸念事項が指摘されて
いる。
①専門性の異なる多数の診療科が診断・治療に関与するため,各診療科単位あるいは各臓器

がん単位で異なる診療が行われることで現場に混乱を来す可能性

②Tumor—agnosticな薬剤の適応を判断するための検査に対する認知度の低さ
③多臓器にまたがって発生しうる有害事象への対応
④NGS検査の臨床導入に伴う二次的所見への対応や,遺伝診療の体制整備
 本ガイドラインは,tumor—agnosticな薬剤とバイオマーカーの開発に伴うこれらの問題点
に対して,臨床現場での円滑な検査・治療実践を行う目的で策定された。
 本ガイドラインでは,tumor—agnosticな薬剤選択を考慮する際に留意すべき事項を,検査
のタイミング・方法,薬剤の位置付け,診療体制を含めて系統的に記載した。
 さらに,近年の検査技術の進歩に伴い,NGS法による包括的遺伝子検査や血液サンプルを
用いた体細胞遺伝子検査(リキッドバイオプシー)の開発が急速に進んでいることを受けて,
これら新しい検査法についても内容に含めた。

 

1.2

 

臓器横断的治療,Tumor‒agnostic therapy

 NCIDictionaryofCancerTermsによると,臓器横断的治療,tumor—agnostictherapyは,

「Atypeoftherapythatusesdrugsorothersubstancestotreatcancerbasedonthecan-

cer’sgeneticandmolecularfeatureswithoutregardtothecancertypeorwherethecan-
cerstartedinthebody」とされる

2)

。すなわち,原発巣やがん種を越えて,バイオロジーに

3

Ⅰ 本ガイドラインについて

本ガイドラインについて