6.1
NTRK
とは
(
表6—1
)
がん遺伝子としてのNTRK1遺伝子は1982年Pulciani,Barbacidらにより,大腸がん組
織を用いたgene transfer assayの中で発見され,OncBとして報告された
80)
。現在では
NTRK遺伝子ファミリーはNTRK1~3までが知られている。NTRK1~3はそれぞれ受容
体型チロシンキナーゼであるtropomyosin receptor kinase(TRK)A,TRKB,TRKCを
コードする。TRKAは神経系に発現し,neurotrophin nerve growth factor(NGF)が結合
するとリン酸化される
81,82)
。TRKBに対してはbrain—derived neurotrophic factor(BDNF)
とNT—4,TRKCに対してNT—3がそれぞれリガンドとして知られる。NT—3は他のTRKに
も結合するが,TRKCへの親和性が最も高い。TRKAは疼痛や体温調整,TRKBは運動,記
憶,感情,食欲,体重のコントロール,TRKCは固有感覚に影響する。TRKにリガンドが
結合すると,細胞内チロシン残基の自己リン酸化が起こり,下流のPLC—γ経路,MAPK経
路,およびPI3K/AKT経路などの活性化が起こり,細胞の分化,生存や増殖などが引き起
こされる
83,84)
。
6.2
NTRK
遺伝子異常
NTRK遺伝子変化には様々なものがあるが,悪性腫瘍の治療上重要なのはNTRK遺伝子
のミスセンスバリアントとNTRK融合遺伝子である。
6.2.1
遺伝子バリアント,遺伝子増幅
NTRK遺伝子バリアントは,大腸がん,肺がん,悪性黒色腫,急性白血病などで報告され
ているが,いずれもTRKキナーゼ活性はwild typeと同程度かむしろ低下している(
表6—
2
)
85)
。NTRK遺伝子のミスセンスバリアントと悪性腫瘍発生との関連については確立され
ていないが,キナーゼ領域にかかわる遺伝子のミスセンスバリアントが認められると,TRK
阻害薬であるlarotrectinibやエヌトレクチニブの耐性となることが報告されている(
図6—
41
Ⅲ NTRK(neurotrophic receptor tyrosine kinase)
NTRK
(neurotrophic receptor
tyrosine kinase
)
Ⅲ
表6—1
NTRK遺伝子
遺伝子
NTRK 1
NTRK 2
NTRK 3
同義語
MTC
;TRK;TRK1;TRKA;
TRK
‒A;p140‒TRKA
OBHD
;TRKB;TRK‒B;
EIEE58
;GP145‒TRKB
TRKC
;GP145‒TRKC;gp145
(TRKC)
遺伝子座
1q23.1
9q21.33
15q25.3
NCBI Entrez Genehttps:
//www.ncbi.nlm.nih.gov/
gene
/4914
https:
//www.ncbi.nlm.nih.gov/
gene
/4915
https:
//www.ncbi.nlm.nih.gov/
gene
/4916