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総論

1.疾患概念

急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は急性骨髄性白血病(acute my-

eloid leukemia:AML)の一病型である。骨髄および末梢血液において独特の細胞形態を有する前
骨髄球の腫瘍性増殖が観察される。正常造血の抑制による貧血,感染症および出血に加えて,
APL細胞に由来する線溶亢進型播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:
DIC)による強い出血傾向を特徴とする。大半の症例においてt(15;17)

(q22:q21)由来のキメラ遺

伝子PML-RARAが陽性である

1, 2)

。AMLの10〜15%を占め,30〜50歳代に多く,60歳以上で

減少する。抗がん薬治療後の二次性APL症例も少ないながら経験される。染色体転座t(15;17)由
来のPML-RARαキメラ蛋白に対する分子標的薬である全トランス型レチノイン酸(all-trans reti-
noic acid:ATRA)と亜ヒ酸(arsenic trioxide:ATO)の登場によりAPLの治療成績は飛躍的に
向上した

3)

2.分類

French-American-British(FAB)分類のM3およびM3 variant(M3v)に相当する。M3は豊

富なアズール顆粒を有し,核不整が強く,またアウエル小体を多数認めるファゴット細胞が出現す
るので形態診断は容易である。一方,M3vは顆粒やアウエル小体を欠き,形態診断は困難なこと
が多く,白血球数も増加例が多い。芽球がMPO強陽性でDICを伴う場合には疑うことが重要で
ある。M3はCD13,CD33陽性,HLA-DR,CD34陰性である。M3vはHLA-DR,CD34陽性が
多い。また,T細胞抗原であるCD2陽性も多い。

WHO分類(2017)では反復性染色体異常PML-RARAを伴うAPLとされる

1)

。APLの治療に

おいて最も重要な点は,ATRAやATOの有効性の有無である。細胞形態によりAPLと診断され
る症例の92%はt(15;17)陽性である。複雑核型などを含めるとPML-RARA陽性例は98%を占
める

2)

。残るわずかな症例の多くは,ZBTB16などの特定の遺伝子が17番染色体上のRARAと

転座する亜型であり(

表1

),variant RARA translocationsとされる

1)

。PML-RARAのFISH検

査で融合シグナルは陰性であるが,RARAを3シグナル認めるときは他のキメラ遺伝子の存在を
疑って検索する必要がある。ATRAの有効性は染色体転座により異なり,t(11;17)/PLZF

(ZBTB16)-RARAとt(17;17)/STAT5B-RARAには無効とされる。ATOはPMLを標的とし,

PML-RARA陽性例のみ有効である。したがって,APLの診断では,FISH法やRT-PCR法によ
りPML-RARAを早期に確認することが重要である。また,M3vは形態診断が困難な場合が多
く,PML-RARAの検出は必須である。

t(15;17)転座に加えて,その他の遺伝子異常がAPLの発症に関与している可能性が高い。最近

の網羅的遺伝子解析により165例の診断時APL細胞において,FLT3-ITD(27%),FLT3

(16%),WT1(14%),NRAS(10%),KRAS(4%),ARIA1A(4.8%),ARID1B(3%)の遺

伝子変異を認めている

4)

。FLT3-ITDはM3vや白血球高値,PMLの切断点bcr3と相関する。こ

れらの主にシグナル伝達経路の活性化変異はPML-RARAと協調して発症に関与していると考え
られる。興味深いことに,他のAMLで頻度が高いDNMT3A,NPM1,TET2,ASXL1および

白血病

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急性前骨髄球性白血病

(acute promyelocytic leukemia:APL)