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唾液分泌亢進,冷汗,顔面蒼白,めまい,徐脈,頻脈,血圧低下などの自律神経症
状を伴うことがある。悪心は同様な刺激により起こり,嘔吐運動に至らないものと
考えられるが,悪心を伴わない嘔吐もあり不明な点も多い。
 嘔吐中枢は局在性のはっきりしたものではなく,一連の嘔吐運動を引き起こす
ネットワークであると考えられており,入力された刺激は孤束核,迷走神経背側核,
疑核,唾液核などを介し嘔吐運動を起こし,また上位中枢へ伝えられ悪心として認
識される。この部位は血液脳関門に覆われているので,直接催吐性の物質には反応
しないが,神経を介した入力を受ける。神経伝達に関与する受容体としてはドパミ
ンD

2

受容体,ムスカリン(Achm)受容体,ヒスタミンH

1

受容体,セロトニン5HT

2,3

受容体,ニューロキニンNK

1

受容体などがある(図1)。いわゆる嘔吐中枢への入力

には4つの経路があると考えられている。

 精神的あるいは感情的な要因によっても嘔吐は起こる。化学療法における予期性
嘔吐はよく知られているが,どのような経路で嘔吐中枢に至るのかは明らかにされ
ていない。頭蓋内圧亢進や腫瘍,血管病変などが直接または間接的に嘔吐中枢を刺
激する。脳圧が高くなくても脳室の拡大,伸展があると機械的受容体が刺激され,
嘔吐中枢への入力となる。

 最後野(area postrema)は第4脳室底にあり,血管が豊富で血液脳関門がないの
で,血液や脳脊髄液中の代謝物,ホルモン,薬物,細菌の毒素など,さまざまな催
吐性刺激を受けるため化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone;CTZ)と
呼ばれる。神経伝達物質ではドパミン,セロトニン,サブスタンスPなどが,薬物
ではモルヒネ,ジギタリスなどが刺激となることがよく知られている。一方,最後
野へは神経性の入力もある。消化管からセロトニン5HT

3

受容体が関与する迷走神

経による刺激や,前庭からの刺激がこの部を介して嘔吐中枢に伝えられる。

 体の回転運動や前庭の病変により前庭が刺激されると,Achm受容体やヒスタミ
ンH

1

受容体の関与するコリン作動性ニューロン,ヒスタミン作動性ニューロンによ

り,直接または最後野を介して嘔吐中枢が刺激される。

 咽頭,心臓,肝臓,消化管,腹膜,腹部・骨盤臓器の機械的受容体あるいは肝・
消化管の化学受容体が刺激されると迷走神経,交感神経,舌咽神経を介し,嘔吐中
枢が刺激される。消化管の伸展は嘔吐刺激となりうる。ドパミン刺激により消化管
の運動は低下し,内容物が停滞することで,消化管の伸展を引き起し,機械的受容

1

.大脳皮質からの入力

2

.化学受容器引金帯からの入力

3

.前庭器からの入力

4

.末梢からの入力

背景知識

1 悪心・嘔吐の病態生理