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パーキンソン症候群

臨床編

 具体的な症例検討に入る前に,パーキンソン症候群の鑑別診断についておさえておきた
いポイントを概説する。まず,パーキンソン症候群とは,振戦,動作緩慢,筋強剛,姿勢
反射障害などの錐体外路徴候を生じた状態をさし,その代表疾患がPDでパーキンソン症
候群の60%を占めるとされる。PDは高齢化社会に伴い認知症とともに年々増加してお
り,完治することはないが,多くの有効な治療薬があるため適切な早期鑑別診断と薬物に
よる治療介入が重要である。一方,PD以外のものには,MSAやPSPといった変性疾患
や,血管障害性,薬剤性,心因性パーキンソン症候群などが存在し,本態性振戦や一部の
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration ; SCD)を含めると,PDとの鑑別が困
難な疾病が数多く存在する。2014年以降,わが国においてもPDの診断ツールとして
DAT SPECTが可能となったが,いまだ十分に正しい知識のもとで普及しているとはい
えない。したがって,ここではPDの診断のポイントを記すこととする。
 PDを臨床的に疑う際は,MRIによって脳幹や小脳萎縮がないこと,基底核萎縮や血
管病変がないこと,大脳皮質萎縮に左右差がないこと,年齢不相応の脳室拡大がないこ
と,などが診断に要求される。つまり,画像診断では,MSAやPSP,血管障害性などの
除外がファーストステップとなる。しかし,発症早期の場合はこうした形態変化に乏しい
ために実際の鑑別診断は困難で,このステージでの誤診は少なくない。もちろん繰り返さ
れる詳細な病歴聴取と神経所見は鑑別診断精度を高めるが,やはり核医学的検査は実地臨
床では有用である。DAT SPECTは黒質線条体ドパミンニューロンの変性を反映するた
め,これにより薬剤性やうつ病などの精神疾患,本態性振戦が鑑別可能となる。また,
MIBG心筋シンチグラフィーもLewy小体病ないしincidental Lewy body diseaseの
合併を考えるうえでは有用である。
 パーキンソン症候群の診断手順は症例によって異なり,医療者側のスキルや知識によっ
ても大きく左右される。したがって,自身の置かれた環境と患者側の経済状況を勘案しな
がら,最小限で適切な検査を適切な時期に行うことが肝要である。とくに高齢患者では加
齢に伴う脳萎縮,高血圧や糖尿病に起因する血管障害,認知症などを背景にもつ者が多
く,また服薬状況も個々で多彩なため,慎重な核医学検査の選択と手順,そして各画像所
見の正確な解釈が要求される。

パーキンソン症候群

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