74

胱内注入は,前出のレビュー文献によれば血尿の制御に至った割合は71~100%と
高い。しかし激しい疼痛のために全身麻酔や脊椎麻酔を必要とする点や施行後の膀
胱萎縮,腎不全の合併のリスクは大きい。それらの点を勘案しホルマリンの膀胱内
注入とミョウバンの膀胱内灌流を比較すると,ミョウバンの膀胱内注入の優位性は
高いと思われる

4)

 実際のミョウバンの灌流方法としては,レビューおよび小規模な症例集積研究の
報告では1%ミョウバン溶液を5 mL/分,または3~5 mL/分,250~300 mL/時の
速度で5 L持続膀胱滴下するといった記載がある

2,3,5)

1—2 膀胱洗浄・膀胱持続灌流が無効の場合

 がんによる膀胱からの肉眼的血尿があり,膀胱内の生理食塩水の膀胱持続灌流が
無効であった場合,原因となる病変の内視鏡手術を考慮する。内視鏡手術は一般的
に手術室で麻酔下に行われる手技であり,開腹手術などに比して身体的な負担は多
くはないものの,患者の身体状況を鑑みながら適応を判断する必要がある。内視鏡
手術で腫瘍の切除が不可能な場合でも,内視鏡による止血術を行うことで血尿の一
時的なコントロールが可能となることから,まずは内視鏡による手術が可能かどう
かを判断することが推奨される。しかしながら,生理食塩水による持続膀胱洗浄な
どの保存的治療で制御困難な膀胱からの血尿に対して,内視鏡手術による止血術な
ども不可能な場合に考慮する方法として,動脈塞栓術や放射線治療が候補に挙がる
と考える。がんに伴う膀胱または前立腺からの出血に対する動脈塞栓術の症例集積
研究では,6例で塞栓術を試行し22カ月の観察期間で血尿の制御に成功したとする
報告がある

6)

。放射線性膀胱炎

1

,シクロホスファミド投与後の血尿に対して動脈

塞栓術を施行した報告

7)

では,初回治療で血尿の改善は83.3%である。この報告で

は生存した14例のうち血尿の再発が観察された症例数は中央値16カ月の観察期間
に4例のみであったとされている。
 放射線治療を肉眼的血尿に行い良好な成績を得られたとする報告も散見される。
Lacarrièreらは30 Gy/10 fr,20 Gy/5 frの照射で2週間後に69%に血尿の一時的消
失を認めたとしている

8)

。筋層浸潤性膀胱がんに対する放射線治療の報告

9)

では,膀

胱に36 Gy/6 fr,6週間の照射が行われていた。この報告では,血尿は58例中50例
に認められていたが,放射線治療後は58例中3例と血尿を呈する症例が有意に減少
している。放射線治療による有害事象も緩和ケアを受けている患者の治療選択では
重要な留意事項であるが,胃腸,尿生殖器に対するEORTC/RTOGを用いた有害事
象の評価では,胃腸に対する毒性(下痢)はG1:22.4%,G2:5.6%,尿生殖器に対
する有害事象(排尿困難

2

,尿意切迫,頻尿,夜間尿)はG1:32.7%,G2:17.2%

と報告されている。以上より,この報告から血尿の制御に対して膀胱への放射線治
療が有効であったことが示唆されるとともに,有害事象も軽微であったことがうか
がえる。
 動脈塞栓術と放射線治療を直接比較した報告はないが,両者を比較すると放射線
治療では有害事象は軽微とするものが多い反面,概ね効果の出現に時間を要し,効
果の持続時間が短いことが挙げられる。レビュー文献

2)

でも急性と慢性の転帰をた

どる場面に分けて両者を使い分けることを推奨している。しかしエビデンスレベル
の高い根拠がないことから,弱い推奨にとどまる。患者が動脈塞栓術に耐えられな

1:放射線性膀胱炎

放射線治療による膀胱の障
害。膀胱粘膜の虚血に伴う血
管内膜炎が進行性に生じ,粘
膜に潰瘍が起こり出血する。

2:排尿困難

排尿しようとしているのに排
出しづらい状態。正式には

(下部尿路症状診療ガイドラ

インでは)排尿症状と定義さ
れる。

Ⅲ章 推 奨