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価項目である投与開始2日目,3日目,4日目,5日目の呼吸困難NRSの中央値は,
モルヒネ群で開始前より低下していたが,モルヒネ群と比較してミダゾラム群で有
意に低かった。モルヒネ群,ミダゾラム群とも重篤な有害事象は認めなかったが,
モルヒネ群の19.4%,ミダゾラム群の12.5%に傾眠(CTCAE
*
v3.0でGrade 2以上)
を認めた。
Naviganteら(2006)
2)
は,予測される予後が1週間以内で安静時の重度の呼吸困
難がある終末期がん患者101名を,モルヒネ単独投与群〔モルヒネ皮下注2.5 mgを
4時間毎に定期投与もしくは定期モルヒネ投与量を25%増量(呼吸困難時レス
キュー薬はミダゾラム皮下注)〕,ミダゾラム単独投与群〔ミダゾラム皮下注を4時
間毎定期投与(呼吸困難時レスキュー薬はモルヒネ皮下注)〕,モルヒネ+ミダゾラ
ム併用群の3群に無作為に割り付け,呼吸困難強度を評価した。評価項目である試
験開始24時間後,48時間後の呼吸困難の修正Borgスケールの中央値は,モルヒネ
単独投与群では投与開始前と比較して低下していたが,モルヒネ単独投与群とミダ
ゾラム単独投与群で統計学的に有意な差を認めなかった。48時間後の死亡率につい
てはモルヒネ単独投与群31.4%,ミダゾラム単独投与群30.3%であった。
Mazzocatoら
3)
は,呼吸困難を伴うがん患者9名を,モルヒネ群(モルヒネ5 mg/
回の皮下注もしくは経口モルヒネ速放性製剤1回分の50%量を皮下注投与)とプラ
セボ群に無作為に割り付け,それぞれクロスオーバーさせて,呼吸困難強度を評価
した。評価項目である投与前と45分後の呼吸困難VAS(0~100 mm)の変化は,
プラセボ群と比較してモルヒネ群で統計学的に有意に改善していた(モルヒネ群:
25改善vsプラセボ群:0.6悪化)。この試験では,プラセボ群では有害事象は認め
ず,モルヒネ群では3名が一過性の有害事象を認めたが,重篤な有害事象は認めな
かった。
Brueraら
4)
は,呼吸困難を伴う終末期がん患者10名を,モルヒネ群(モルヒネの
4時間毎の定期投与分を50%増量)とプラセボ群に無作為に割り付け,クロスオー
バーさせて,呼吸困難強度を評価した。評価項目である投与30分後,45分後,60
分後の呼吸困難VAS(0~100 mm)は,プラセボ群と比較してモルヒネ群で統計学
的に有意に低値であった。両群とも呼吸抑制は認めなかった。
Ben‒Aharonら
5)
による系統的レビューでは,基準に合致した3つの臨床試験のメ
タアナリシスを実施して,呼吸困難に対するモルヒネの全身投与は対照群と比較し
て有意に呼吸困難を軽減する効果があると結論した。
**
以上より,これまでの研究では,モルヒネの全身投与はプラセボと比較して,が
ん患者の呼吸困難を統計学的に有意に緩和することが示されている
3,4)
。一方,実薬
の対照群との比較試験
1,2)
では,がん患者の呼吸困難に対するモルヒネ全身投与の優
位性は示せなかったが,これらの試験はバイアスリスクが高い試験であった。また,
モルヒネ全身投与に伴う有害事象は,医療従事者による十分な観察を行うことで許
容されると考えられる。
したがって,本ガイドラインでは,がん患者の呼吸困難に対して,モルヒネの全
身投与を行うことを推奨する。ただし全身状態や呼吸状態の悪い患者では,モルヒ
ネ全身投与開始後に,意識状態の変化や呼吸抑制に関して慎重に観察を行うことと
する。
*
:CTCAE(Common Ter-
minology Criteria for Ad-
verse Events)
有害事象共通用語基準。治
療・手技の実施に関連した可
能性のある好ましくない,意
図しない徴候を1~5の5段
階(grade)の重症度に分類し
た基準であり,最新のバー
ジョンは4.0である。
Ⅲ
章
推
奨
2 呼吸困難に対する薬物療法