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《1学期》痛みの治療と症状緩和
せん妄
第
講
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間によって変わるようなせん妄です。
いずれにしろ,どのタイプのせん妄であっても家族の心の負担は大きい
のです。自分の大切な家族が変わり果ててしまう,話していることがわから
なくなる,話せなくなることのつらさは,とても大きいものなのです。
薬のせいでこうなったのでしょうか
かつて私はホスピスで働き始める前,うまく医療用麻薬を使えず,患者
の痛みを十分に抑えることができないことに無力感を感じていました。ホス
ピスがまだ少なかった頃の報告の多くは,いかに痛みを抑えて,限りある生
をまっとうするかという話が多かったように思います。自分もホスピスで働
き始めて,あれほど処方に躊躇していたモルヒネを大勢の患者に処方するの
を実際に体験して,ああこれで多くのがん患者の苦痛が抑えられると安堵し
ました。
しかし,その安堵はしばらくしてすぐに消え去っていきました。丁度こ
の質問と同じ質問をホスピスで働き始めてすぐに受けたのです。よく眠るよ
うになった患者を見た家族から,「使った薬のせいでこうなったのでしょう
か」と責めるような口調で言われたのです。モルヒネを投与中の患者でした。
「確かにここへ来てお陰様で痛みはとれた。それでも,ただ眠らされている
だけではないか。これでは意味がない」と言われたのです。当時はまだせん
妄に関してはあまり多くの知見はなく,セレネースなどの向精神薬を使い,
落ち着くように対応するという程度でした。どのくらいの患者にせん妄が起
こるのか,せん妄とはどういう状況なのかというイメージがまだない時代で
した。2000年頃のせん妄に対する考え方は,「せん妄は薬が原因で起こる。
できる限り薬の影響を軽減し,向精神薬を使用してせん妄を治す」ことが臨
床の実践の中心でした。
薬の指示を出し始める家族
この患者にも,毎日の状況,前夜の睡眠状況から考えたモルヒネを含む
薬の調節,睡眠薬の時間,量,種類の調節で,連日のように対応しました。
図5 低活動型せん妄
図4 過活動型せん妄
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