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上肢の外傷性変化は多種多様であるが,頻度の高いものは限られており,それらのX線所見
に習熟することが見逃しを防止する第1歩である.
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肩・上腕
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鎖 骨
鎖骨clavicleは,内側部は膜内骨化membranous ossifi cation,外側部は軟骨内骨化
endochondral ossifi cationからなる複雑な骨である.最も早く骨化するが,その内側の
二次骨化中心の癒合は遅く,骨端線は20歳頃から閉じ始め,完全に閉じるのは25歳頃
である.内側下方に骨侵食に似た皮質不整をみることがあるが,これはcostoclavicular
ligamentの付着部(rhomboid fossa)である(図47).また上縁の皮質に小さな孔,肩甲
上神経の溝をみることがある.
直交する2方向からの撮影は困難であり,通常は正面像(AP)と40度程度頭側方向
へ傾けた正面像を撮影することが多い.内側部の重なりは大きく,断層撮影やCTが必
要となる.
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骨 折
鎖骨骨折は,落下により肩あるいは伸ばした腕がぶつかって起こることが多く,小児
では最も頻度が高い.転位や屈曲を伴うことが多く,通常内側は胸鎖乳突筋により上方
へ転位し,外側は上肢の重量のため下方へ転位する.中央部の骨折の頻度が最も高い.
出産時の外傷としても起こるが(図48),これは通常なんら変形を残さず治癒する.外
側部の骨折は,烏口鎖骨靭帯の損傷を伴いやすく,治癒が遷延しやすい.烏口鎖骨靭帯
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図47
rhomboidfossa(20代男性)鎖骨斜位正面像
鎖骨内側下方に境界明瞭な骨欠損を認める(→).rhom-
boid ligamentの付着部である.