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脳神経

背景・目的

 2歳以下の小児被虐待児の死因で最も頻度が高い原因は頭部損傷である。虐待による乳幼児頭部損傷

(abusive head trauma:AHT)に対して,初回の画像検査は,単純CTを行うことが推奨されている

1)

。頭部

画像評価にはMRIもあり,CTよりも組織分解能に優れ病変検出能は高い。ただし,CTと比べて検査時間が長く,
十分な鎮静が必要であり,鎮静によるリスクも伴う。AHTの評価において,MRIが有用であるか検討した。

解 説

 AHTが疑われた場合,MRIは初回に選択される画像検査ではない。これはCTと比較して,MRIは検査時
間が長く,体動を抑制できない乳幼児では鎮静が必要とされ,また,鎮静中は十分なモニタリングが必要とされるか

らである。

 AHTで,最も頻度が高い異常は硬膜下血腫である。また,硬膜下血腫以外の所見には,脳挫傷,びまん性軸
索損傷(diffuse axonal injury:DAI),硬膜外血腫,脳浮腫,くも膜下出血および低酸素性虚血性傷害などが

ある

2)

。頭部損傷においてMRIはCTより優れた病変検出能を有し,AHTの初回CTで異常があった症例に

MRIを施行したところ,25%で新しい所見を認めたとする報告がある

3)

。よって,CTで異常を認めた症例やCT

所見で異常がなくとも神経症状を有する症例には,MRI施行を考慮するべきとされる

4)

 Rubinらは,高リスク群(肋骨骨折,多発骨折や顔面外傷を認める2歳以下の幼児または月齢6カ月以下の乳
児)で神経症状を有しない被虐待児に,頭部CTないしはMRIを施行したところ,37%に異常を認めたと報告し

ている

5)

。Laskeyらは,全身骨撮影を受けた4歳以下の被虐待児で,神経所見を有しない症例でも頭部画像検

査で29%に異常が認められたとしている

6)

。これらの報告が示すように,頭部損傷を受けていても,年少児,特に12

カ月以下の乳児では,神経症状を認めない場合がある。また,虐待による頭部損傷を疑う身体所見として網膜出

血が重視されるが,網膜出血がなくとも頭部損傷を認めることが報告されており,身体所見で頭部画像検査の必要
性の有無を判断するべきではないとされる

5)6)

 以上から被虐待児に頭部画像検査は必須であり,病変の検出能の高さならびに放射線被曝が不要であることを
考慮すると,AHTの評価にMRIを施行することは有用であり,推奨される。MRIは,AHTにおける神経予後評
価にも有効とされ,Bonnierらによれば,3カ月以内に施行されたMRIで脳実質病変が認められた場合神経発達
障害と強い関連性を持ち,実質病変の範囲は運動発達障害ならびに認知機能障害の重症度と相関するとしてい

7)

。よって,AHTに対するMRI施行は,病変の検出だけではなく,神経予後評価にも有効と考えられる。

 MRIのプロトコールには,T2強調像,T1強調像,FLAIR画像,T2

強調像,拡散強調像が含まれるべきで

ある。2歳未満の髄鞘化が未完成な時期でのFLAIR画像は,脳実質の信号評価が難しい場合があるが,急性

期くも膜下出血についてCTと同等ないしはそれ以上の検出感度があり,時期の異なる硬膜下血腫および少量の

くも膜下出血の検出に有用とされる

8)9)

。DAIは微細な出血病変であることが多く,T2

強調像や磁化率強調像

(susceptibility-weighted imaging:SWI)が検出に有用である。SWIは通常のT2

強調像と比べて,微細な

出血病変に対して4-6倍の検出能があり,出血病変検出数の増加は神経学的長期予後と相関するとの報告があ

虐待による頭部損傷が疑われる時にMRIを推奨するか?

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推奨グレード

MRI

は小児虐待による頭部損傷後の病変検出に優れているため,推奨する。

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